第2話 学校の教室と玲香さん

 担任の先生が来るまでの時間、騒がしい教室の中で僕は自分の席で窓の外を眺めながら静かに昨日の事を思い出していた。


(玲香さん、すごく……すごかったな)


 押し倒された時の彼女の重みや温もり、その体の柔らかさや匂い全てが僕を彼女色に染めてしまった。触れるところ全てに気持ちよさを感じ、ほっぺにちゅっとされた時には嬉しさの余り気を失いそうになってしまった。


(というかほっぺだけじゃなくて普通にキ、キスまでしちゃったし)


 あの時の彼女の唇の感触をはっきりと思い出し、思わず顔が熱くなる。そうして一人悶々としていると、ドアを開く音と共に聞き覚えのある声が聞こえた。


「はよー」

「あっ玲香じゃんおはよー」

「よう玲香、おはよう」


 次々とクラスの皆から挨拶をされているその声の主はもちろん玲香さんだ。ただ僕の方から挨拶をしに行ったりはしない。元々教室の隅にいて目立たない僕が同じギャル友達と一緒にいる玲香さんのところへわざわざ挨拶しに行くのは周りのみんなから違和感を持たれるからだ。


「今日は遅かったじゃん玲香」

「ちょっと寝不足でさ、化粧するのに時間かかっちゃっんだよね」

「とか言ってめっちゃ化粧ノリいいの腹立つ」

「なにそれ酷くない?」


 でもそれなのにどうしてあんな関係になっていたのかというのはまぁ置いておくとして、学校の中では僕と玲香さんは昨日のようなスキンシップをしたり話したりはしない。それには色々細かい理由はあるけど、強いて言えば玲香さんに好意を抱いている男子達から目を付けられたくないというのと、あまり目立ちたくないというのが理由だ。


 最初に玲香さんにそれを提案した時、玲香さんはニヤニヤしながら二人だけの秘密にしてる方が楽しいからいいよと言ってくれた。ニヤニヤしてたのがちょっと気になるけど、喜んで頷いてくれたから良しとしている。


 だから僕と玲香さんがあんな関係になっている事は誰も知らない。もしかしたら母さんは僕の部屋に残った玲香さんの匂いで薄々僕が部屋に女性を連れ込んでいたという事には気付いているかもしれないけど、それについて直接何かを言われた事はないから分からない。



 友達と話している玲香さんは昨日と変わらずとても可愛かった。彼女の綺麗に染めている金髪も、僅かに焼けた小麦色の肌の色も、全部が玲香さんの魅力を引き出していて本当に素敵だと思う。彼女のその姿から見て分かる通り、玲香さんはいわゆる『ギャル』と呼ばれるような見た目をしている。


 私立のこの学校では髪の色や制服の着崩しなどは気にも留められない。流石にそれは問題だろうというレベルの事でなければ特に注意もされない。どうしてそうなっているのかというと、それはこの学校が創設された際に残されている創設者の言葉にあるらしい。


『十代で最も多感な年齢の君達には、この三年という短い時間は二度と訪れる事の無い、とてもとても大切な時間だ。そんな大切な時間をただ勉強にだけ使うのは余りに勿体ない。

 教科書を開き、参考書を開き、教師の話を聞き、ただ覚えるだけの勉強をしていれば良いという訳では無い。勿論、だからと言ってそういった勉強を疎かにしてもいいという話でもない。君達のこれからの長い人生を考えれば、今言った勉強だけでは足りないという話だ。

 ただ勉強に励むだけが人生の全てでは無いと知る事も学びの一つ。君達はもっと沢山の事を学び、三年間の高校生活という大切な時間を心から楽しみ、学び、成長し、より良い人生を送る為の糧として欲しい』と言ったとか言わないとか。


 『ピアスをする事も、髪を染める事も、化粧をする事も、制服を可愛らしく着崩す事も。この学校においてはそれら全てが是とされる。なぜならそれは生徒達にとってファッションという名の一つの学びであり、そこから生まれるコミュニケーションは彼等をより柔軟により大きく成長させるためのもう一つの学びとなるからだ』と誰か偉い人から聞いた気もするし聞いてない気もする。


 まぁそんな事はともかく、いくら学びを得るためとはいえ男女二人が部屋であんな事をしろとまでは当然だけど言ってない。というか言う訳がない。でもなってしまったものは仕方が無いし、いまさら駄目だと言われても止められる訳が無い。僕はもう玲香さんによって玲香さん色に染められてしまったから。



 彼女が動く度にさらさらと揺れる金髪は華やかで、まるで彼女の周囲だけが輝いているかのように見えた。


(玲香さんってすごく温かくて……いい匂いがして……)


 玲香さんを見ながらそんな事をぼーっと考えていたのが良く無かった。


 ふと視線を少し下げたところで、玲香さんの着ているブラウスがその大きな胸の膨らみによって今にもボタンが弾け飛びそうなほど苦しんでいるのが目に入ってしまったからだ。


(っ!?やばい見るな!今あれを見たらやばい!)


 咄嗟に玲香さんを見るのをやめ窓の外へ視線を逃がす。


(だめだっ!今あれを見ていたら立てなくなる!思い出すな僕!)


 だめだと思ってもあの膨らみを見た瞬間にはっきりと思い出してしまう。昨日彼女に「触って?」と言われそっと触れた時に感じた温もりや重量感のあるとても柔らかな感触を。


(まずいまずいまずい!落ち着け!落ち着けば大丈夫だから!)


 僕の意志とは無関係にゆっくりと力を増していくそれを鎮めるため、僕は必死に沢山の動物や数字など全く関係の無いものを適当に思い浮かべていく。


「あー落としちゃった」


 すると突然すぐ隣からそんな声が聞こえた。驚いた僕は思わず顔をそちらに向けると、いつの間にかすぐ側に来ていた玲香さんが何かを拾おうとしているところだった。そしてなぜか玲香さんは落とし物を拾うために屈む際、その短いスカートの中をまるで僕に見せつけるようにしてお尻を突き出して来た。というかお尻をぶつけて来た。


(うわああああぁぁああぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!)


 僕はぶつかる直前まで目に焼き付けるようにしっかりと彼女の迫って来るお尻を見つめてしまった。まるでシルクのような光沢のある紫色の下着に包まれた大きめのお尻はとても肉感的でとてもエッチだった。


「あっごめんね!ぶつかっちゃった!大丈夫?ごめんね?」


 僕にお尻がぶつかった、もといお尻をぶつけて来た玲香さんは心配そうなセリフとは裏腹にニヤニヤしながら僕に謝って来た。


「ぜ、全然大丈夫ですから。き、気にしないでください」

「たっ、水崎くん優しいねっ!ありがとっ!でもホントごめんね?」


 今絶対たっくんって言いかけたな玲香さん。


「いえ、本当に何ともないので大丈夫ですから。気にしないでください」


 折角必死に鎮めようとしていたものが彼女のお尻による一撃のせいで、呼んだ?と言わんばかりに鎌首を持ち上げさらにその力を増していた。


(だめだ!今はその時じゃない!頼むから寝ていてくれ!)


 僕が玲香さんにその事を気付かれないよう必死になってそれを抑えつけていると、彼女はもう一度謝る振りをして僕に顔を近づけ、ボソッと僕の耳元で呟いた。


「たっくんのえっち」


 それを聞いて固まっている僕の顔を見た玲香さんは満足そうな表情を浮かべると、彼女はそのまま自分の席へと向かって行ってしまった。


 彼女の後ろ姿を茫然としたまま見つめていると、彼女が席について間もなく僕のスマホから通知音が聞こえた。


(な、なんだろう?何か嫌な予感しかしないんだけど)


 スマホを取り出して操作し確認すると、そこには予想していた通り玲香さんからメッセージが届いていた。それを見た僕は恐る恐るそのメッセージを開く。


『今見せたやつこの前買った新しいやつなんだけどどう?カワイイっしょ?ブラもめっちゃカワイイからウチで撮ってきたやつ送っとくね♡』


 そんなメッセージと共に送られて来た自撮り写真。そこには紫を基調とした下着を身に着けた玲香さんが、玲香さんの部屋と思われる場所でピースをしながら可愛らしく首を傾げてウィンクしている姿が写っていた。


「ぶふっ!!……あっえっとあの、何でも無いですごめんなさい」


 突然一人で噴き出した僕に何人かの視線が飛んで来たので、慌てて両手を左右に振りながらすぐに頭を下げた。


(何てものを送って来るんですか玲香さん!!)


 心の中で玲香さんに愚痴を漏らしつつ素晴らしい自撮りの写真に感謝していると、またもスマホにメッセージが届いたのですぐに確認する。


『たっくんが大好きなやつも送っとくね♡』


 そこには画面いっぱいにアップされたおっぱいがあった。下着は着けておらず自分の腕で先端は隠すようにしつつ支えている。


(玲香さん!!もうやめてえぇぇぇえぇぇぇぇぇ!!!!!)


 今にも腕から零れ落ちそうになっているおっぱいと、玲香さんが着ているブラウスをこれでもかと苦しめていた大きな膨らみが頭の中で融合し暴れ回っている。


(やばいやばいやばい!!)


 ただでさえさっきのお尻攻撃によって元気になっていたところにさらに追い打ちをかけられた事で、僕の意志を完全に無視したそれは痛みを感じるくらい激しく立派に立ち上がってしまう。


(うわああああぁぁああぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!!)


 心の中で大きく叫ぶ僕の耳に、クスっという笑い声が聞こえたような気がした。

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