9-3
というわけで、研究所の一室で二人は十三の淹れてくれたコーヒーを飲んでいた。
「どうでした?」
そう聞かれ、風磨は、うーん、と顔をしかめた。
「いい夢っちゃ夢でしたけどね」
「それは良かった」
「おれたち、ゆ〜っくりやってこうよ」
という道人に、風磨は、また、うーん、と、顔をしかめた。
「まあねぇ……いい勉強にはなったけど」
「ならいいじゃん」
「でもやっぱ、早くプロになりたいな。靴屋のバイトも好きだけど」
「うーん。でも、自分次第でどうにかなるほど甘い世界じゃないしね。運もあるしさ」
「運かぁ」
「運ってさ。自分の力で育てて鍛えるタイプの運と、自分の力でどうこうするっていうんじゃないタイプの運があるじゃん」
「あるある。どうすりゃいいんだろ。博士さんの見解は?」
二人の世界にいたら十三が退屈するだろうと謎の配慮をして十三にそう訊いてみる。十三は突然話を振られたのでちょっとびっくりしたが、慣れているのかいつも答えるように答えた。
「ちゃんと毎日の日常の生活を、ちゃんと営むことかと」
「そしたら運良くなるかなミッチー?」
と、道人の顔を向く。
道人はちょっと考えて、やがて言った。
「わかんないけどさ。でもさ。博士さんの補足をすれば、誰に対しても誠実に、嫌いな奴でも人間として最低限の振る舞いしてさ。工夫して手抜きすることはあってもサボることはなく。じゃなきゃ、棚から牡丹餅が降ってきてもキャッチできるとは限らない……みたいな」
「おっしゃる通りです」
「さすがミッチー。そして博士さんも」
「ミッチーさんみたいな人がデジタナを扱えばうまく機能するんでしょうけれど」
興味深い、と思い、風磨は訊ねてみる。
「もうちょっと具体的に」
十三は柔和な笑みで言った。
「夢は、現実的に見ている方が叶いやすいってことです」
「ああ、なるほど。ミッチーがいつも言ってることだな。でも、うん。そう思うよ」
「音楽っていうとなんかファンタジーな夢って感じですけど、実際に事実としてミュージシャンはたくさんいますしね」
「そうそう」
「そして後は野となれ山となれ。もちろんデジタナでそういうわけにはいきませんがね」
「——うん」
と、風磨は立ち上がった。
「じゃ、帰るかー」
「おっけ。コーヒーありがとうございました」
「いえいえどう致しまして」
二人はコーヒーを飲み干し、カップをそばの棚に置く。
「じゃ」と、二人は声を揃えて頭を下げた。「ありがとうございました!」
そして十三は両手を組んで言う。
「今回、二人の集合的無意識が組み合わさったことであなた方の願いが同期したシミュレーションという形に結果的になりました。ただミッチーさんの真の願いがプーマさんにこんな短時間でダイレクトに影響を与えたことで、私としてはデジタナ研究ならびに複数人実験の研究の余地がありそうなことだというのが率直な感想です。もし万が一何か異変があったらすぐにご連絡を。そんなこんなで今回の実験があなた方の将来にとってより良い形で発揮されていくといいなと他人事ながら思います。私風に言わせてもらえば、デジタナ向きのミッチーさんがいれば夢見がちなプーマさんもきっとうまくやっていけることでしょう。それでは今回の実験にご参加いただき誠にありがとうございます。またいつかどこかでお会いしましょう」
「なんか一気にまとめましたね」
という風磨に、十三はふふっと微笑んだ。
「私の出番が少ないですからね——」
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