魔法使いと王女様

風雅ありす

#00. 魔法のきゅん

 透明な小瓶の中に、薔薇の花びらを溶かしたような色の液体が満たされている。


 黒衣を着た魔法使いが、その小瓶を手のひらに乗せて差し出す。


「この薬を意中の相手に飲ませれば、最初に見た人のことを好きになる」


 フードの下から、低く落ち着いた男の声がした。


 薬は、男が苦労して作った自信作だ。効果は絶大。


 それを飲んだ者は、胸がどきどきして、最初に見た相手のことを好きで好きでたまらなくなってしまう。


「つまり、惚れ薬ってこと?」


 差し出された小瓶に、王女が視線を注ぐ。


 そうだ、と男の魔法使いは頷いた。


――好きな人の心を手に入れる魔法って、ある?


 そう王女から問われて作ったものの、魔法使いには、彼女が一体誰にその薬を使うのか知らされていない。


 これまで幼い頃から仕えてきた王女が、惚れ薬を欲するような歳頃になったのかと思うと、魔法使いは複雑な気持ちであった。


 しかし、王女は、差し出された小瓶を受け取ることなく、顔をあげた。


「それじゃあ、この薬、あなたが飲んでくれる?」


「え」


「……あ、待って。他に誰も来ないよう、扉に鍵を掛けておきましょう。万が一、侍女が入ってきて、あなたがそちらを見てしまわないように」


 そう言って王女は、扉へと向かう。鍵をかける王女の背中を見つめながら、魔法使いは、小瓶の中身が減っていやしないかと、思わず何度も確かめてしまった。誤って自分が薬を飲んでしまったのかと思ったのだ。


「さぁ、早く飲んでちょうだい」


 急かす王女を前に、魔法使いは、自分の鼓動が速くなっていくのを感じていた。


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