辻斬り姫 ~日本丸ごと異世界転移 最強の刀は付喪神~
ジョバイロ
序章 前編 終わる過去
月が映える真夜中。
燃え盛る屋敷があった。
そこには死体の山。
傷だらけの少女。
少女をも殺そうと迫りくる敵。
怒号、混乱、血の臭い。
少女の目の前には、刀が
炎に焼かれ崩れる屋敷。
その
燃え盛る炎を背にして。
ただ一人。
「自分から殺されに出てくるとは、探す手間が省けたよ」
ニタニタと
後ろには数人の武装した部下。
男は比較的軽装だが、部下たちは甲冑を身に纏っている。
「お前を殺して、お前に罪を着せる。 それで私は最高だ。 絶好だ! 我が世の春だあ!」
喜びを抑えきれずに、身悶えする男。
その男に向けて。
少女がゆっくりと刀を向ける。
男は笑う。
「この絶望的な状況で、今さらなにをしようというのかなあ!?」
男は屋敷の周りに陣取っている大量の影を指さす。
「見ろお! あれは私が用意した百体にもなる魔物の群れだあ! あいつらの強さは屋敷をぶっ壊した時に十分見ただろう? ほら! よく見ろお!」
少女はちらりと外の魔物に目を向ける。
そこには男の言うように、屈強な魔物が群れを成して待機していた。
魔物たちは男の指示を待ちながら、何かをくちゃくちゃと食べていた。
少女の目が見開かれる。
あれはこの屋敷の使用人たちだ。
少女と共に暮らしてきた、言わば家族のような人たちだ。
それが、魔物の餌となっている。
誰のせいか?
当然、この勝ち誇った顔で息まいている目の前の男のせいだ。
少女の瞳孔が自然と開いていく。
「ご自慢の剣術も、私の家の武力とこの魔物たちの前ではまるで意味をなさなかったなあ! ざまあみろ! なにが武士の家元だ! なにが名家だ! ざまあみろおおおお!!」
男が唾を飛ばしながら絶叫する。
その瞬間。
少女の怒りは限界を超えた。
「んん? なんだ? お前、その顔はあ? なぜこの状況で笑っている?」
そう、少女は笑っていた。
ただしその笑顔はひどく
まるで地獄のような笑みだった。
少女は笑みを浮かべながら、
「気でも狂ったか? まあそれも仕方ないか! それじゃあそろそろお前にも死んでもらおうかなあ! 笑顔で逝けるなんて良かっ…………!」
しかしその言葉を言い終わる前に。
男の両腕は。
切り落とされた。
「あ? ん、んん? ……あ、ああああああああ!!」
宙を舞った二本の腕がぼたりと床に落ちる。
その腕を見て男が発狂する。
「わ、わた、私の! 腕! 腕がああああ!」
少女が男へさらに近づく。
男の腕から噴き出る血が顔にかかる。
しかし少女にそれを気にする様子は全くない。
「お、お前ら! 殺せ! このイカレ女を殺せぇ!」
男が後ろを振り返って部下に命令する。
しかし。
男の後ろに部下はいない。
代わりに立っていたのは。
男の前にいたはずの少女だった。
そして少女の足元には。
首と胴体が別々になった男の部下が転がっていた。
「は、はっ、っはあああああ!?」
振り返って、少女は男の喉元に刀の切っ先を当てる。
「ふっ! ひ、た、助けて……!」
男は命乞いを始める。
その顔は先程までの勝ち誇ったものとは程遠い。
涙と鼻水と
「悪かった! まさか魔物たちがここまで暴れるとは思わなくて!」
少女が男を睨みつける。
「わ、私たちの資金力は知っているだろう? 家も建て直す! お前にも金をやる! それもとんでもない額をくれてやる! だから! なあ! 私を殺すな!」
少女の顔が
少女が切っ先を当てていただけの刀を構えなおす。
それを見て男が
「やめろやめろやめろやめろ殺すな殺すんじゃないお願いだやめてくれお金お金お金私はこんなところで死ぬ人間じゃないんだ死にたくないおかお金やめろやめてこの野郎ふざけるななんでお前なんかにやめろそれを私に向けるなやめろやめろやめろ!!!」
刀を握る手に力がこめられる。
「やめっ……!」
男の言葉を
風と肉を切る音が、鳴った。
未だ燃え盛る屋敷。
増えた死体の山。
鮮血に濡れた少女。
眼前には魔物の群れ。
怒号、
少女の右手には、刀が
流した涙の跡は、既に返り血で上塗りされ。
顔から
燃える
少女は
ただ一人。
ただひと言。
「わたし、狂い斬ります」
それだけを
そして少女は次の瞬間。
魔物の群れに向かって走り出した。
少女が走り出してから数時間後。
屋敷の周りは地獄絵図と化していた。
集められた約百体の魔物。
その全てがずたずたに斬り倒されていた。
一面が血の海となった屋敷の前で、少女は力尽き倒れこんでいた。
ぼろぼろの身体はもはや言うことをきかない。
流れる血は止まりそうもない。
それでも少女はやりきった。
屋敷と家族をめちゃくちゃにした、男と魔物を殺しきった。
殺されたみんなの無念ははらした。
ただ、遠い土地に避難させていた弟だけが心残りではあった。
一族の長となるべき自分が、ここで朽ち果てることの罪悪感。
未来の国への不安。
思うことは数多くあった。
しかし少女の意識はゆっくりと。
確実に深く冷たい闇へと、溶けていった。
◇ ◇ ◇
ふと、目が覚める。
がばあっと少女は勢いよく起き上がる。
もはや目覚めることは無いと思っていたにも関わらず、奇跡的に助かったのだろうか。
自らの身体をペタペタと触って確かめる。
そうしながら周りを見渡す。
青空はある。
だが、足元は白い床がどこまでも続いていて果てがない。
「ここが
思わず少女は呟く。
すると少女の後ろから、その呟きに反応するように声が聞こえた。
「うーん、惜しい! ちょっとだけ違うんだなあ」
少女は驚いて振り向く。
反射的に刀を構える。
「怖がらなくてもいいよ。 わたしは
「か、神様! ……ですか?」
◇ ◇ ◇
この出会いによって。
終わったはずの少女の時間は、
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