第二章 初夏の訪れ(後編)

部屋の灯りを落とし、ベランダの風に当たる。

冷たい風が頬を通り抜けた。

どれだけ時間が経っても、あの春の匂いだけは消えなかった。


テーブルの上、スマートフォンが光る。

表示されたニュースの見出しに、目が止まった。


『芹沢ホールディングス 代表取締役・芹沢遼 海外事業部より帰任』


指が止まる。

思考が、止まる。


“……遼くん?”


あの春の日から、どれほどの季節を越えただろう。

もう一度その名前を目にして、

胸の奥がどうしようもなく熱を持った。


「……おかえり、遼くん。」


誰に聞かれるでもなく、

美桜は小さくつぶやいた。



その声が、夜風に溶けた。

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