第17話 氷の国 ― 凍れる真実 ―

 夜の王都セレスティアは、静かに眠っていた。

 けれど、その静けさは嵐の前触れだった。



白き塔・夜


シオン「――父を、止める。」


 その声が、冷気を帯びて響いた。

 アウリスとレオは言葉を失う。


アウリス「止めるって……まさか、王をか?」

シオン「氷冠王ヴァルシオン。俺の父であり、氷の国そのものだ。」


 その名が出た瞬間、空気が重くなった。

 シオンの瞳は夜よりも深く、静かに燃えていた。


シオン「父は“秩序”のために人を凍らせる。

 反逆は氷牢、声を上げれば“沈黙の祈り”。

 民は怯え、国は息をしていない。」


 アウリスが苦く息を吐く。


「……それでも、お前の父だろ。」

シオン「分かってる。

 だからこそ、俺が止める。」


 その瞳に宿るのは、憎しみではなかった。

 ――壊さなければ救えないという、絶望の覚悟だった。



王城・会談室 ― 同夜


 氷の国の大臣、オルステッドが一礼して退席する。

 静かな微笑みを浮かべ、穏やかな声で言う。


「では、控室をお借りします。

 久方ぶりに、この国の風を感じたいのです。」


 リュミエルはその背中を見送りながら、

 胸の奥に、微かな嫌な感覚を残した。



翌朝 ― 王の間


 朝靄の中、氷の国より正式な文書が届いた。

 カイエル王が封を切り、淡々と読み上げる。


『停戦を破棄する。』

― 氷冠王 ヴァルシオン・グラキエス


 広間が凍りつく。

 ヴァルドが拳を握り、リュミエルが息を呑んだ。


ヴァルド「昨夜まで友好を語ってたくせに……これが本性か。」

リュミエル「まさか、会談そのものが……罠?」


 重い沈黙が落ちた。

 そして、誰かが口にした。


「オルステッド殿は――?」



控室 ― 同朝


 リュミエルとヴァルドが駆け込む。

 扉を開けた瞬間、冷気が吹き抜けた。


 部屋の中は白く霜に覆われ、窓の外の結界がひび割れている。

 机の上には茶器が残り、湯気はとうに消えていた。


ヴァルド「いねぇ……夜のうちに?」

リュミエル「ありえない……あの結界を破った?」


 サリオネ・ヴァルグラントの結界――

 王都最強の防御魔法を突破して消えた者など、聞いたことがない。

 それでも事実、オルステッドの姿はどこにもなかった。


 その時、扉が乱暴に開いた。


「報告っ! 第三区――マルティス公爵邸が襲撃されました!」

「屋敷全体が氷に包まれ、家族全員が凍死!」


 室内の空気が一気に凍る。

 報告の声は震えていた。


リュミエル「……まさか、もう始まってるの?」

ヴァルド「宣戦布告の翌日にこれか……!」


 誰もが理解した。

 宣戦の文は、ただの言葉ではなかった。

 ――すでに、行動が伴っていたのだ。



白き塔


 塔の上から見下ろす王都は、静まり返っていた。

 だが遠く第三区の方向には、白い煙のような光がまだ残っている。


レオ「……これが、戦争なのか。」

アウリス「違う。これは――始まりにすぎない。」

シオン「父の氷は、止まらない。

 ……なら、俺が止めるしかない。」


 風が吹き抜ける。

 その冷たさが、これからの冬を告げるようだった。



――氷の国、宣戦布告。

 そして同じ日のうちに、最初の血が凍りついた。

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