第3話

レベル5に到達した俺は通路の岩陰で休憩し、根性論で回復を促進しながらHPとMPが満タンになるのを待った。


HPとMPが全快するのを確認すると、俺は探索を再開した。

間もなく広間の隅に下へと続く石造りの階段を発見した。空気が一段と冷たい。


(第2層への階段だ、準備は整った)


一旦、覗き見のつもりで階段を降り、第2層へ足を踏み入れた。


第2層の構造は第1層と似ていたが、より広く、通路の天井が高かった。

松明の光が届く範囲は狭く、暗闇が濃い。俺は壁に沿って進む。


数十メートルほど進んだだろうか。

通路は広間に通じていた。その広間の奥まった場所に淡い光を放つ泉が見えた。


「水だ。」


俺は立ち止まる。

喉の渇きは戦闘ストレスで完全に忘れていたが、現代を生きる人間にとって体の汚れは耐えられなった。


このダンジョンに落ちてから一度も体を拭けていない。泉の光に誘われ、覗くだけの決心を忘れてしまった。


(覗き見のつもりだったが水だ、しかも光ってる。体を流したい!)


周囲を検索で調べるが、この距離では詳しい情報は出ない。

俺は泉へ向かって慎重に歩を進めた。


泉の前までたどり着き安堵した瞬間、背後からカシャカシャという不気味な音が響いた。


「っ」


俺は慌てて振り返る。

泉の広間を取り囲む巨大な石柱の影から剣と盾を持ったスケルトンが一体現れた。

その背丈は俺より頭一つ分大きい。


(スケルトン)


(くそっ運が悪すぎる)


俺はすぐさま広間に入るために通ってきた通路へ引き返そうとしたが、そこにもまたもう一体のスケルトンが静かに立ち塞がっていた。


「うそだろ」


退路は完全に断たれた。目の前に一体、背後に一体。二対一の絶望的な状況だ。


「独り言」


俺は低い声でスキルを発動した。

「田中裕太、落ち着け。逃げ場はない、勝つしかないぞ」


心が強制的に落ち着く。


(正面と背後、1匹づつ潰すしかない。まずは正面の敵を無力化する)


俺は通路の影に張り付いたまま検索を発動した。


【解析情報 解析結果:スケルトン。

耐久性が高い。致命的な攻撃は難しい。

特徴:打撃や神聖属性が弱点。骨が擦れる音で空間認識を行っている可能性がある。】


俺が小説で知っていた情報とほぼ同じだ、これでは攻略の糸口は見えない。


俺は次の瞬間、さらなる情報を引き出そうと再度検索スキルを発動した。


【検索結果:累積経験値が規定値に達しました。スキル『検索(R)』がレベルアップします!】


検索(R):Lv. 1 → Lv. 2


(レベルアップ!?)


俺は内心叫んだ。

苦労してレベルを上げているうちに、知らず知らずスキルの経験値も貯まっていたらしい。


スキルがレベルアップしたことで何が変わった?


俺はすぐさま検索の項目に検索を重ねる。


【解析情報 解析結果:スキル『検索(R)』Lv.2:対象の弱点や知識をより詳細に解析する。】


(より詳細な情報だと)


俺は希望に賭け再度スケルトンに検索を発動した。


【解析情報 解析結果:スケルトン。

弱点:弱点の骨密度が低く、弱点に強い衝撃を与えると連鎖的に機能が停止する。 弱点箇所:頸椎(首の骨)仙骨(腰椎の付け根)。】


「頸椎と仙骨」


俺は弱点という大きい情報に歓喜した。


Lv. 1では「打撃が弱点」程度の曖昧な情報しか出なかったのに、Lv. 2になった途端、具体的な急所が表示されたのだ。


これは使える!


正面のスケルトンと向き合う。


(正面のスケルトンは盾で胸を防御している、だが仙骨なら)


俺は手に持っていた傘の金属の柄をスケルトンの盾めがけて投げつけた!


カキン!


傘の柄は盾に弾かれ床に落ちる。


俺はその盾で防御する一瞬の隙を見逃さなかった。

俺は地面を蹴り、床に落ちていた両手サイズの大きな石を掴み上げ、両手で構えた。


俺は大きな石を構えたままスケルトンに向かって走り、その足元へ滑り込んだ。


俺は滑り込んだ勢いを活かし巨大な石を腰の付け根(仙骨)目掛けて全力で突き上げた。


バキィィッ


骨が砕ける音が響いた。仙骨が砕けスケルトンはよろめき動きを停止。


俺は即座に立ち上がり、大きな石を頭上に振り上げ、よろめいたスケルトンの頸椎を強打した!


ドガッ!


鈍い音が響き、スケルトンは完全に動きを止め、後ろへ倒れ込んだ。


(よし!検索のおかげでどうにか一匹無力化した!)


俺は振り返り次のスケルトンに向き直る。


「次だ」


俺は再び独り言で集中力を極限まで高め、大きな石を構えなおした。


二体目のスケルトンは仲間の消滅に戸惑っているようだったが、すぐに剣を構えた。


(弱点をどうにか突くしかない)


俺は両手に大きな石を構えたままスケルトンに向き直った。


スケルトンは剣を振り下ろす。俺は両手に持った大きな石を盾のように掲げた。


ガキン!


大きな石が剣を受け止め、火花が散る。


しかし打撃の衝撃は大きく、俺の腕に痺れが走った。剣の切っ先が運悪く俺の左肩を掠めたHPがわずかに減るのを感じる。


(くそっ痛ぇ!剣が掠っちまった...!)


俺はすぐさま退避し体勢を立て直すこのままでは命がいくつあっても足りない。


一撃必殺に賭けるしかない。


スケルトンは再び剣を構え、先ほどよりも大きく予備動作の長い大振りで俺に攻撃を仕掛けてきた。


(大振りだ!隙ができる!)


俺はその大振りな攻撃を大きな石で受け流すように叩きつけ、スケルトンが態勢を崩した一瞬の隙を狙い、頸椎を強打した。


ゴキッ!


鈍い音が響きスケルトンがよろめき倒れる。


俺は立ち上がり、そのまま倒れたスケルトンの胸骨めがけて、何度も、何度も、石を叩きつけた。


ドカッ!ドカッ!バキッ!


鈍い音と骨が砕ける音が響き渡る。


一撃では倒せない。俺は根性論を発動させ腕が痺れてもひたすら骨を砕き続けた。


そして七度目の打撃が命中した瞬間、スケルトンの全身がカシャという小さな音を最後に光の粒子となって消滅した。


【経験値:50を獲得しました】


そして、無力化してあった1匹目のスケルトンにもとどめを刺す。


【経験値:50を獲得しました】


(くそっLv. 6に必要な320 EXPに全然足りない...)


俺はその場に座り込んだ。

どうにかスケルトンは倒せたが今後、今のままのステータスでは厳しくなってくる。


俺は泉の近くへ戻った。


スケルトンを倒した高揚感と、死に直面したストレスが混ざり、体全体が汗と土で汚れている。


泉の誘惑を断ち切れなかった俺は今度こそ安全を確認する。


俺はまず泉の淡い光と水面に検索を発動した。


【解析情報 解析結果:泉の水。飲用可能。浄化作用あり。】


(飲める!しかも浄化作用だと?LUC 1の俺がこんな良い泉を見つけるなんて)


俺は安堵した。


泉の水を慎重に掬い、顔や手を丁寧に洗う。現代人としての尊厳が帰ってくる。

そのまま泉の横で充分な休憩をとることにした。


充分回復した俺は、更なる安全マージンを確保するためにレベル上げをすることを決めた。


奥へと続く通路に視線を向け、探索へ向かうのであった。

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