魔法少女シリーズ
@Ungaii
第1話 片鱗
「ん……? あ、これって……」
魚が陸を歩いている位の違和感。
普通なら誰も近寄らない、半グレの巣窟である路地裏。
そんな路地裏にぽつんと、キラキラの意匠が施されたいかにもな女児向けおもちゃが置いてある。
「だ、誰も見てねぇよな……?」
気を付けろアタシ。
こんなところ誰かに見られようもんなら恥ずか死んでしまう。
前後左右良し、監視カメラも無い。
これなら……。
「ちょっとこのおもちゃで遊んでも……良いよな?」
口から免罪符の様に言葉が漏れてしまう。
昔からこういうのに憧れていたんだ。
みんなの話や、絵本の中でしか見れなかったアタシのヒーロー。
うちはテレビも見られないほど貧乏だったからこういうの買って貰えなかったんだよな……。
恐る恐るおもちゃを手に取る。
心臓のドキドキが加速する。
初めて手に持ったおもちゃの感触は、酷く冷たかった。
でも何だろう。
何かが満たされた気がする。
……危ない危ない。
勝手に満足しかけてしまった。
「確か……絵本で見たのだとこんな感じに……」
昔の記憶を頼りにおもちゃ……いや、魔法のステッキを振る。
予想はしていたが、電池は入っていないので光らないし鳴らない。
でも楽しい。
ついでにアレもやってみるか。
こういうのにお決まりの、〝変身〟
かっこよく戦って、誰かを守るための姿になるやつ。
アタシもそうなれたら良いな。
「よし、やるぞ!」
おもちゃで遊んでいるとは思えないほど覚悟を決める。
こんだけ覚悟決めたのは
「ま、マジカル〜変身!」
…
……
………
満点、満足、満悦!
100点、いや1億点の変身だ。
あの時の絵本で見たヒーローの姿そのまんま。
もちろん実際に変身する訳では……。
ってあれ?
なんでアタシの服光って――
「うわっ!」
夜の闇を光が穿つ。
乱暴な、ただ強いだけの光では無くどこか温もりを感じる光がアタシを包み込む。
徐々に光が落ち着いてくる。
そして見え始めるアタシの姿は……。
「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁ!」
袖やスカートの部分にこれでもかと可愛いフリフリ。
手足には純白のタイツ。
頭にはこれまたフリフリのカチューシャ。
いかにも……いや、もうそうとしか言えない。
これ……アタシホントに〝魔法少女〟に変身しちゃった!?
いやいやいやいや、え?
恥ずかしいとか感動の前に強い困惑がアタシを襲う。
どうしてこうなった!
いや心当たりしか無いけど……。
まさかホントに変身出来るとは……。
アタシが子供だった頃から技術は随分進歩したようだ。
光って鳴るだけだったおもちゃが、服を変えてしまうほどになっているとは思わなかった。
しかも、216連勤とは思えないほど身体が動く。
疲労回復効果も付いているのか……。
17歳、人生初の変身。
なんか革命的瞬間に立ち会った気分だ。
「あの、すみません」
「ひゃっ、ひゃいっ!?」
待て。
冷静になるんだ、アタシ。
そう、今のおもちゃは変身できるのが常識っぽいんだ。
だからアタシはへんてこコスプレイヤーでは無い。
ただ17歳の女性アルバイターがおもちゃで遊んでウキウキしてるだけだ。
「それ、僕のなんで返してもらって良いですか?」
「は、はい! 只今!」
ダメだ振り向けない……。
どう考えても不審者だ……。
事の顛末全部話して納得してもらった方が早いか?
『昔からこういうのに憧れていて〜』なんて話せるわけない……!
変身解除……の方法だけ聞こう。
「あの、その、変身解除の方法だけ教えて貰えないでしょうか……」
「え? あ、すみません。 私と同類でしたか」
え?
これ実は話しかけてきた人が不審者だったってオチ?
「なら、死んでもらいます」
「ちょっ! うわっ!」
後ろからの攻撃に対処が出来ず、背中に1発。
その後、顔面、腹に計2発。
普段ならかなりの大ダメージ。
倒れてもおかしくないレベルだ。
だが今はただ吹き飛ばされただけで、身体には何ともない。
何故だ? 変身してるからか……?
でもこれはただのおもちゃなはず。
「あれ? 今ので怯まないのかー。 君、相当やるね」
そんで今アタシの目の前に居る敵の姿。
全身真っ黒焦げのような身体、身体に対してデカすぎる腕など。
ありゃ人間じゃない。
そうだな、おあつらえ向きに〝怪物〟とでも呼ぼうか。
あの怪物は力も人間のそれではない。
現に、アタシは3発殴られただけで50……いや100メートルは吹っ飛ばされた。
そして『同類』発言。
「なんなんだよいきなり! 殺す気か!」
「はい、そうですが……」
「じゃこっちも遠慮なく!」
さっきも感じたが、身体が軽い。
軽すぎるくらいだ。
ただジャンプしただけで数十メートルは跳べる。
「なぁ! さっき同類って言ってたよな!」
「まぁ正確には違うんです……が?」
動きも速い。
目測で100メートルも離れていた距離は瞬きしてる間に縮まってしまった。
いや、縮まり過ぎと言っていいだろう。
アタシが今見ているのは怪物の後頭部……と言うか後ろ側だ。
「じゃあアタシも、アンタと同じ様に怪力って事だよなァ!」
怪物に一撃。
空中から重い1発を叩き込む。
「ぐっ……! ああっ!」
「っ…とと」
あまりの力にバランスが崩れる。
よく見ると、着地した地面が少し抉れていた。
これは……生き物に向けちゃダメなやつだな。
まぁ今さっき向けちゃったけど……。
「……………………」
「も、もしかして……。 死、死んじゃった……?」
頭……と言っていいのかは分からないが、頭に当たる部位が完全に地面にめり込んでいる。
危険なのは承知だが、掘り返してみよう。
「えっ!? ちょ、ちょっと待ってよ!」
掘り起こそうと怪物に触れた瞬間、塵になって消えてしまった。
「さっきから何が起こってるんだよ……」
落ちてるおもちゃを拾って遊んでいたら何故か変身して。
変身したら何故か怪物に襲われて。
「って、あれ?」
いつの間にか、服が元に戻っている。
「あれ……あのおもちゃは……?」
ずっと握っていたはずのおもちゃも、どこかへ消えていた。
跳んだ弾みに落としてしまったのだろうか?
まぁ良いか……。
なんか疲れたし、今日はもう帰ろう。
きっと幻覚を見ていたんだ、216連勤のせいで。
そう信じよう。
「ただいまぁー」
時刻は午前2時。
また日を跨いでしまった。
最近
ちょうど反抗期くらいの歳だし、嫌われてないか不安だ。
「おかえり、お姉ちゃん」
「って……起きてたのか……」
「今日は一段と疲れてるみたいだけど……大丈夫?」
『魔法少女になる幻覚を見てました』……なんて言えないよな……。
仕事が大変だったと言っても、変に不安にさせるだけだ。
「あぁ、ちょっとな。 そんな事より早く寝ろ……成長や明日の学校に響くぞ」
「…………」
黙って寝室へ行ってしまった……。
はぁ……本当に嫌われてないか不安だ。
望愛の肉親はもうアタシしか居ないんだ。
唯一の肉親が嫌いとなると相当な負担だろう。
「なぁ、望愛」
「……何」
「ごめんな、こんな不甲斐ないお姉ちゃんで」
今のアタシはどんな顔をしてるか分からない。
多分……笑顔だろう。
こういう時ずっと笑っていなしてきたもんな、アタシ。
望愛がドスドスと大きな音を立てて近づいてくる。
歩き方的に怒っているのだろう。
「わっ!? なっ、なんだよ!」
「お姉ちゃん、不甲斐ないなんて言わないで」
何故か私に抱きついてきた。
体格差は結構あるのに引き剥がせない。
「お姉ちゃんは、私の大切なお姉ちゃんなの。 だから自虐は許さない。 そんな辛そうな笑顔じゃなくて、もっと幸せそうに笑って?」
「……こ、こうか?」
「……出来てない。 私がいつか必ず幸せにさせてあげるから、その時まで待っててね」
「あ、ありがとう……」
やっぱ不甲斐ないな、アタシ。
望愛に……守るべき妹に、こんな思いさせるなんて。
「さ、もう寝よ? お姉ちゃん」
「……そうだな」
今日は久しぶりに望愛と寝れた。
いつもより少し、幸せになれた気がした。
今日は不思議な事がいっぱいあったが、生きてるなら儲けもんだろう。
また明日も、無事に終えられるといいが……。
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