双葉莉奈の初夜
片山大雅byまちゃかり
こんな夢を見た
こんな夢を見た。
腕組をして枕元に坐っていると、仰向きに寝た莉奈が、静かな声でもう死にますと云う。
銀髪の彼女は長い髪を枕に敷いて、空を反射したような透き通るエメラルド色の瞳をこんこんと灯らせている。
とうてい死にそうには見えない。しかし彼女は静かな声で、『もう死にます』とはっきり言った。
なるほど、確かに筋肉フェチで匂いフェチのド変態という事実が全生徒に露見したのは、引っ込み思案で内向的な彼女にとっては致命的な一幕だったのかもしれない。自分も、そう思った。
自分もたしかにこれは死ぬなと思った。
そこで、そうかね、もう死ぬのかね、と上から覗き込むようにして聞いてみた。
死にますとも、と云いながら、彼女はこちらに瞳を向けてきた。色素の薄いエメラルドの様な瞳で、そこには何の感情も、希望も籠もっていなかった。その宝石の奥に、自分の姿が鮮やかに浮かんでいる。
そこで自分は、お人形さんのような美しい容姿をしたこの少女が、自ら命を絶ってしまうのは惜しいと感じてしまった。
それで、ねんごろに枕の傍へ口を付けて『こんなバストサイズで死んでいいのか? この先、一生墓場にスリーサイズが刻まれるんだよ、七十三』と言葉を詰めた。
すると彼女は美しい宝石を宙に漂わせたまま、やっぱり静かな声で『でも、どうせこれ以上大きくはならないから。仕方ないよ』、と云った。
『そんじゃ、一つ揉んで大きくしてあげようかね。オラ、ウオ、ほう。なかなかの絶壁だ。良い感触だ』と言うと、『良い感触って、僕に、そんな胸なんてあるわけないじゃん。どうせ僕は男装が最適解の女だよ』と、彼女はにこりと笑ってみせた。
その笑いがあまりにも淋しく哀しげなものに見えたもので、自分は黙って手を胸から、顔を枕から離した。腕組をしながら、どうしても死ぬのかなと思った。
しばらくして、彼女がまたこう言った。
「死んだら、埋めてほしい。大きな真珠貝で穴を掘って。そうして天から落ちてくる星の破片かけを墓標に置いてほしい。そうして墓の傍に待っていてほしい。また逢いに来るから」
自分は、いつ逢いに来るかねと聞いた。
「日が出て、それから日が沈むよね。それからまた出る、そうしてまた沈むだろう。──赤い日が東から西へ、東から西へと落ちてゆくうちに、──大樹、君は待っていられる?」
言っている意味がよく分からなかったが、自分は黙ってうなずいた。彼女は静かな調子を一段張り上げて。『百年待っていてほしい』と思い切った声で言った。
「百年、僕の墓の傍に坐って待っていてください。きっと逢いに来るから』
百年経っても筋肉フェチで匂いフェチの風評は消えないし、胸は成長しないよ、そう言いかけた口を慌てて閉じた。……きっと、彼女自身もそれを理解しているはずだからだ。
だから、自分はただ待っていると答えた。すると、エメラルドの瞳のなかに鮮やかに見えた自分の姿が、ぼうっと崩れてきた。崩れてきたと思ったら、彼女の目がぱちりと閉じた。長いまつ毛のあいだから涙が頰へ垂たれた。──もう死んでいた。
莉奈が居ない世界には留まる価値は無いと感じた自分は自害して果てた。夢の中だということは分かっているのだ。それで目が覚めるだろう。
◇
「という夢を昨日見た」
「大樹……ツッコミどころがたくさんありすぎて困るよ〜」
☆本編はこちらをご覧ください
「双葉莉奈といとこな君と」
https://kakuyomu.jp/works/822139838280342834
双葉莉奈の初夜 片山大雅byまちゃかり @macyakari
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