Log1「スタートアップ・ヴェンジェンス」
“アウリオン社最新TAカタログ”
“皆さんご存知、戦場の主役たる
元々は土木作業用に開発されていた二足歩行兵器ですが、我々アウリオン社を含めたPMCの弛まぬ努力によりこうして、現在の戦場を彩る華々しい兵器へと昇華しました。
今回はそんなTAの中でも、アウリオン社の技術の粋を集めた最新鋭機をご紹介します!”
モニターで照らされた暗い小空間で、男は雑誌を読んでいた。どうやらTAのコクピットらしい。
男は無精髭を生やし、大きな隈がペイントのように染み付いている。 使い古されたパイロットシートは表皮がところどころ剥がれ、まともに負荷を軽減してくれるとはとても思えない。
「ひえー、たっかいねえ……最近の機体ってのは……俺の仕事の報酬じゃ、一生かかっても無理だな」
ペラペラとページを捲り、そして見開きに辿り着いて止める。
ページに写った機体は脚部やバックパックに至るまでとことん近接格闘用の武装が詰め込まれた、特異なコンセプト機だった。
「受注生産の最新鋭機ねえ……TA“クライシス・ネメシス”……こういう全身凶器の機体は疲れるんだよねえ」
ふと男が視線を上げると、モニターにメッセージが届いているのが見える。雑誌を畳んでそれを開く。
『お久しぶりです。
私は先日あなたの作戦のオペレートをさせていただいた、アウリオン社のフェスと申します。
実はあなたに折り入ってご相談があるのですが……
もし興味を持って頂かれたら、こちらのアドレスに連絡を』
「なんだ、あの嬢ちゃん。こんな怪しい手に引っかかるかっての」
男はメッセージを閉じ、雑誌をまた開いて読み始める。その内に、眠りに落ちた。
……
…………
………………
……………………
ビー!ビー!ビー!
と、けたたましいアラートが鳴り響き、男は顔に被せた雑誌を吹き飛ばしながら飛び起きる。モニターを一瞥すると、高速で敵性機体が接近してくるのがわかる。
「なんだなんだ急に……!」
男が急いで機体を起動し、戦闘モードへ移行して姿勢を上げる。
前方を確認すると、廃ビルの合間を脇目もふらずに直進する機影を捉える。
「識別は……アウリオン社の重タンク脚部、パイロットは……フェス?これってあのオペレーターの子か!?」
接近してくる重装タンクは左腕に装備した大型ガトリングを放ち、一切速度を緩めることなく突貫していく。
「待て待て待て……!」
男は直上に飛び上がりつつ、右手のバーストハンドガン、左手の大型ハンドガンのトリガーを同時に引きながら擦れ違うように頭上を進み、反転して着地する。
同時にタンクもブレーキを掛けながら、反転して停止して見せる。
「どういうつもりだよ、あんた」
「失礼しました。あのメールを送ったまでは良かったのですが、どうせ応じてくれないだろうと思って」
重装タンクのパイロットは先日のオペレーター……フェスと同じ声だった。
「オペレーターがTAに乗るもんかね。しかも単騎でこんなところまで」
「サイオンさん。あなたに折り入って頼みがあるのです。アウリオン社からの正式な依頼ではなく、私からの私的な依頼として」
「またデカく出たもんだな、嬢ちゃん。個人で傭兵に仕事を寄越すなんて、随分金持ちらしい」
「あなたも知っているはずでしょうが……一時期、傭兵が所属不明の機体に襲撃され、殺害される事案が多く発生していました」
「ああ、そうだな。俺は運良く生き残れたが」
「最近、それと似たような事案が多く発生しています。企業や、作戦体系を問わず。そこで企業は安全な作戦の遂行のため、傭兵たちにある条件を提示しました――
二人一組での作戦のみ、正式に報酬を支払う対象とする、と」
「なるほど。それでお嬢ちゃんは俺を雇って仕事をしようってなったわけだ」
「ええ。あなたにとっても得かと思いまして」
サイオンは操縦桿を握ったまま、沈黙する。
「あなたはその傭兵狩りに襲撃された。しかしなお生き延びた。妻を犠牲にして。
ちょうどいい機会ではありませんか?ここで私やアウリオン社の手を借りれば、憎き仇敵に出会えるかもしれません」
「嬢ちゃん、あんた……デリカシーがないな。交渉が下手だ」
「どちらでも構わないので。ダメなら私はオペレーター業務に戻るだけです」
「……」
「尤も、あなたはパートナーを探すところから始めないと、無法者の依頼しか受けられなくなりますがね」
呆れて下を向き、吐息混じりに言葉を返す。
「あーあー、わかったよ嬢ちゃん。しばらくあんたに雇われてやるよ。で、報酬は?」
「私がアウリオン社から受ける仕事で貰う報酬を山分けしましょう。あなたが八、私が二、そういう取り分で」
「取り敢えずはそれで了承するよ。後は実際に仕事を受ける時に考えるさ」
「ありがとうございます。では……アウリオン社の私のローディングドックまで向かいましょう」
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