Vengeance↔Vanishing

あごだしからあげ

プロローグ

 激しい戦闘の痕跡を残す市街地で、二機の二足歩行兵器が並んで歩いていた。


「ちょっと漁るだけでこんなに稼げるなんて、傭兵稼業が馬鹿らしくなるわね」


 二機共にフル武装されており、両肩、両腕にそれぞれ別個の武器を装備している。


「ああ、そうだね」


「今度から死体漁りがメインに――」


 左に立つ機体から響く女の声を遮り、隣の機体に数発の弾丸が撃ち込まれる。そして間もなく、二人の正面に軽装逆関節二脚の機体が着地する。


「不法侵入者に警告する。この区画は戦闘後の処理が終了するまで、許可のない機体は排除される。

 今の発砲は威嚇射撃だ。即刻拾得物を放棄し、速やかに領域を離脱せよ」


 逆関節からは中年と思しき男の声がし、右手に装備している電磁ハンドガンをリロードして見せる。


「邪魔よ!」


 女が叫び、自身の左腕に装備していた重機関銃を乱射する。


「出来れば人殺しはしたくないんだが、これも仕事だ。悪く思うなよ」


 逆関節は機構を利用した素早く高い跳躍から上を取り、女が数瞬遅れて右腕の単発式バズーカで迎撃するが、砲弾が虚しく空中を進むに留まる。上から電磁ハンドガンで頭部を滅多打ちにして、撃ち込まれた弾丸がスパークして各部にショートサーキットを起こし、女の機体は明らかに動揺したように小さく動く。


「なに!?姿勢制御システムが……!?」


 悠々と背後を取って着地し、左腕の発振器を起動してブレードを形成、そのまま女のコックピットを躊躇無く貫く。残心のようにブレードを消し、飛び退いて一拍の後に機体が爆散する。再び接近し、隣の機体の正面に立つ。


「……。好きにしてくれ」


 若い男の声がする。彼の乗っていた機体は運悪く、駆動系に過電流が注ぎ込まれて機能不全に陥っていた。


「悪いな」


 逆関節はブレードを形成し、コックピットごと機体を上下に両断する。上半身が落ち、下半身が倒れ込み、激しくスパークしている。


『侵入者の反応消失を確認。帰投を許可します』


 初々しさの残るオペレーターの声を聞き、逆関節は戦闘モードを解除しながらブースターを吹かし、その場から高速で離脱を開始する。焼け焦げた臭いが巻き上がり、火の粉とともに風に吹き飛ばされる。


『それにしても……殺す必要あったんですか?特に、もう一機の方は……』


「傭兵ってのはそういうもんだ。情で見逃してたら、俺が食い扶持を失くしちまう。請け負った仕事内容を、そのまま果たす。俺達は金さえ貰えりゃなんでもいいからな」


『まあそうですけど……あ。あと、あの人たちすごいいい装備してましたけど、なんであんな弱かったんですか?』


「俺が強い!って可能性は?」


 オペレーターが黙り、聞こえるほどの溜息を漏らしてから続ける。


『流石に私でも、あの人たちの動きが素人だってことくらいわかります』


「まあ、今日の仕事はPMC同士の戦闘跡を保全することだっただろ?あいつらは、自前のTAタイタンアーマーを最低限度の武装で持ってきて、戦場に放置されてる装備を拾い上げて、そのまま持って帰って売ろうとしてたんだよ」


『なるほど……盗品だったから、武装のグレードと本人の戦闘技術が一致していなかったんですね』


「ま、そういうこと。企業専属の傭兵は、装備もいいからなぁ」


『逆関節に光波ブレードなんて割と高級品使ってるくせになに言ってるんですか』


「おっさんは昔から仕事道具を大事にする派なの」


『そうですか。領域を離脱しました。ミッション終了ですね』

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