その微笑みは、剣よりも

秋桜星華

その微笑みは、剣よりも

 今日はいい天気ね。空が笑っているような、雲一つもない快晴だわ。


 ごきげんよう、公爵夫人様。どうされましたの?暗いお顔で長椅子に腰掛けられていると空との対比でより引き立ちますわね。


 ここにいる理由ですか?

 それは貴女あなたにそっくりそのままお返しいたします。”公爵夫人”になったのですから、それ相応の教育を受ける必要がありますよね。こんなところにいて、大丈夫なのでしょうか?


 公爵夫人を強調しているように聞こえる?

 これは、ワザとでしてよ。

 ええ。貴女のいうように、公爵の配偶者とわたくしのような侯爵は身分として同程度ですわ。

 でも、私は婚約者を私から奪い、見事公爵夫人におさまられた貴方様に対して、敬意を込めているのです。決して未だに他の方の爵位を記憶していない貴方へのあてつけではありませんわ。決して。


 いかがですか、公爵夫人の地位は?

 もうやめたい?

 ふふっ。……失礼。あまりにも考えなしの感想で思わず……ふふっ。

 申し訳ありません、公爵夫人様。あまりにも滑稽で。

 ですが、やめるなんていうことができる立場ではないことなんて、理解されていたのではなかったのですか?

 公爵は国に数人しかいない、国家の中心的立場ですわ。もちろん、公爵夫人も同様でしてよ。そのような立場なのですから、自分勝手な発言など許されないでしょうね。


 これほど忙しいなんて思っていなかった、ですか。でも、自らその立場を求めたのは、そんなことをほざいて――あら失礼、おっしゃっている貴女でしょう?よく高位貴族ほど身勝手で横暴なんていうことを聞きますけれども、言われている方は対して仕事をしていない方々に言われてもなんにも響いておりませんわ。

 私達にとって一番の名誉は皇帝からの信頼、中世への報いなのですから。

 もしかして元男爵令嬢である貴女には旦那様の寵愛はなによりのご褒美に見えたのでしょうか?でもね、貴族はそれほど簡単に感情を見せないはずなのですよ。自分の感情が現れる部分というのはつまり、自分の弱点でもあります。自分の弱点を誰かに知られるということは、日々熾烈な競争が繰り広げられる貴族社会では致命傷になることもあるのです。


 公爵夫人様、一度旦那様が貴女に向ける感情が貴女の求めているものなのか、確認してみてはいかがでしょうか。


 あら、少し顔色が悪いですわね。ご病気だといろいろ大変だと思いますので、今日のところはもう帰ったほうがいいのではないかと思いますわ。

 続報を楽しみに待っておりますので、ぜひお聞かせくださいね。





 ごきげんよう、公爵夫人様。あれから2日ですわね。思ったよりも貴女に巡り合う機会が早くにあり、驚いています。

 それで、どうでしたの?貴女の旦那様。向けられていた思いは、貴女が私から奪ってでも欲しいと思ったものでしょうか?


 ……婚姻を取り消したい、ですか?それはまた話が急に飛躍しましたね。

 逆に貴女は、婚姻が取り消せるものだと思っているのですか?


 あぁ、思っていたのですね。でも、貴女の言っている制度が通用するのは意図しない婚姻の契約を結ばされた場合で、取り消せる期間は8日ですのよ。知らなかったのですか?さすが、立場と形だけの愛だけに釣られる方は違いますね。


 貴女は契約書に喜んでサインしましたし、提出してから私は満月を二度は見ましたわ。


 そのように顔色を変えられても、時の針は逆向きには回りませんのよ。最早、貴女に残された道は公爵夫人としての務めを果たすこと以外にありません。


 重要な制度の条件さえ知らないところからのご活躍、期待しております。


 私、もういかなければなりませんわ。侯爵として、やるべきことがありますの。


 さようなら。また会う日まで、お元気で。




 そして、彼女の姿が見えなくなったところで私は呟いた。


「ざまぁみろ」




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