第11話 一緒のパーティーに

 イライザが俺のほうに近づいてきた。



「無事に終わりましたよ、イライザさん」



 握手でも求められるかと思ったが、違った。



 いきなり抱きつかれた。

 それも涙目で。



「あ、ありがとうございます! アレックスさん、本当にありがとうございます!」


「あ、あの……抱きつくのはどうかと……。こっちは神官なので……。男女の接触は避けてきたというか……」



 ラジェナ神殿は決してただれた場所ではなかった。というか、田舎すぎて出会いがなかっただけというのも大きいが……。



「ものすごく強かったです……。すごいって信じてはいましたけど、それよりもずっと、ずっと……」



 ここでどんな顔をしていいのかわからないので、俺はずっと遠い景色に目をやっていた。

 ある意味、戦闘に駆り出されるよりずっと対応に困る……。



「あの、弟さん、そろそろイライザさんに離れるように言ってもらっていいですかね?」



 好色な奴でも、横に相手の親族がいる状態で鼻の下は伸ばせないだろう。自分は神官なんだから余計にそうだ。



「姉は冒険者として生きる道を選んだわけですし、冒険者が強い人にあこがれるのは自然なことかなと」


「いや、そんな悟ったような発言、求めてないですから! だいぶ誤解されてますよ!」



 ようやくイライザも落ち着いたらしく、離れてくれた。



「すみません、感情がぐちゃぐちゃになっていました。正直なことを言うと、土地を守れるとは思ってなかったんです。親も早くに亡くなってこの土地も自分たちの代で消滅するのかなって……」



 吹けば飛ぶような小領主は親が早くに亡くなると、子供はすぐに行き場を失う。苗字もないような立場になって奉公人をやるなんてケースもある。立場だけ領主でも、親がいるその辺の庶民よりずっと不安定だったりする。



「人助けができてよかったです。よかったらラジェナ神を信仰していただけるとありがたいですが、ご利益あるかは神のみぞ知るということで……」



 神の奇跡が起きたわけじゃないから、いちいちラジェナ神殿まで行こうとは思わないよな。まあ、布教活動についてはサヴァラニアで生活基盤ができてからでいいか。



「それでは、俺……私はサヴァラニアに戻ります。当初の予定通り定宿を決めて、冒険者ギルドに登録して日銭を稼ぐ生活に入ります」


「いや、アレックスさん、何もかもおかしいですよ!」



 イライザが驚いた声を出した。



「何もかもって、また治癒師じゃなくて武道家として登録しろって話ですか? わからなくもないですが、どこの流派にも属さないような戦い方をする奴を武道家のカテゴリーに入れていいかというと……」



 剣士なら剣を使うからそうだと言えるが、ほぼ曲芸しかしない奴を武道家に入れていいかは微妙なところだろう。



「それもありますけど、ずっと宿に泊まるぐらいなら道場に来てください。ケーンさんも喜んで受け入れてくれます!」



 ケーンさんって誰だ? ああ、師範みたいな見た目の人か。



「そうですね、それはありがたいです。生活基盤があったほうが助かりますし」


「それと、登録は治癒師でも何でもいいんで、一緒にパーティー組みましょう! アレックスさんとだったら、どんなダンジョンでも攻略できます!」



 もっと若い人同士でパーティーは組んだほうが楽しいんじゃないかと思うが、愛の告白をされたわけでもないのに全力で断るのも失礼か。それに冒険者の先輩の誰かには師事して、冒険者の常識を教えてもらわないといけないのだ。どうせなら面識のある人のほうがいい。



「わかりました。こんなおじさんでよければ、どうぞ」


「ありがとうございます」



 満面の笑みでイライザは言ってくれた。悪い気はしない。周囲の人間を笑顔にできるというのは、神官として大切なスキルだ。



「それと、いい年してると思ってるなら丁寧語もやめてくれません? 聞いてて私も気をつかいますから。パーティーがぎこちなくなるのもよくないです」



 それは一理ある気もした。



「こほん……イライザ、これからよろしく頼む――みたいな感じですか?」



「最後、また丁寧語になってますが、そういうことです」

 慣れるのにはまだ時間がかかりそうだなと思った。

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