アラサー女
アラサーの定義はおおよそ二十八歳から三十二歳を指すってウイキペディアに書いてあったけど、悔しいけど鈴音も入ってしまってる。二十七歳とどこが違うんだと言いたいけど、アラサーになった影響は嫌でも感じてる。
鈴音には結婚願望はある。こんなものあって当たり前だろ。そりゃ、無いのだっていると思うけど、ある方が圧倒的多数派に決まってるじゃない。いくつで結婚するかはあれこれ考え方は違うだろうけど、ごく平凡に平均年齢の三十歳までにはしたかった。
でもさぁ、二十八歳になってしまうと平均を越える可能性が高くなる。どうしてかって、そんなもの結婚なんて一目会ったその日にするものじゃないぐらいは知ってるもの。結婚するにはねステップを幾つか踏み越えないと出来るものか。
ごくシンプルにはまず誰かに好意を抱き、告白するなり、告白されて恋人関係になるところから始まるだろうが。そこからデートを重ねて、関係を深めて行って、この相手と結婚したいとなったらプロポーズだ。
ここだってプロポーズに行くまでに肉体関係はもちろんだけど、同棲と言うステップを踏む者だって多いはず。一緒に暮らして、それでも結婚相手として相応しいかの見極めの段階だよ。
プロポーズが終わって婚約状態になれば結婚式の準備だ。そこには親への挨拶も入ってくる。そこら辺で一騒動があるのもいるそうだけど、結婚式の準備だって一日や二日で出来るものじゃなく半年ぐらいは余裕でかかるはずだもの。そこまでステップを踏み抜いてやっと結婚じゃないの。
これだけのステップを踏み越えるには二年でもギリギリのはず。なのに、なのにだよ。鈴音にはそのスタートのとっかかりの彼氏さえいないんだよ。当たり前だが彼氏もいないのに結婚なんて起こるはずもないってこと。
彼氏、それも結婚も考えてたのはいたよ。一人目は学生の時の彼氏だった。出会いはありきたりだけど、同じゼミで、同じサークルだったこと。ちなみに鈴音の初体験もその彼氏だ。初体験の相手と結婚しないといけないわけじゃないけど、考えたって異常でもなんでもないだろうが。
でも同棲はしなかった。彼氏がなんだかんだと嫌がったぐらい。そうこうしているうちに卒業が迫って来た。そうなってきて鈴音も焦りだした部分はあったよ。だって卒業したら就職して社会人になっちゃうじゃない。
同じ会社に就職出来れば良いけど、そこまで就活は甘いものじゃない。鈴音は神戸に決まったけど彼氏は苦戦してた。このままじゃ、離れ離れになりそうじゃない。だから、どうしたものかと思い悩んでたんだ。
就職だって神戸とか、せめて大阪とか、京都ぐらいならまだしも、東京とかの関東になったら遠距離恋愛確定だもの。遠距離恋愛はやっぱり難しいって聞くものね。とにかくこの恋がこれからどうなるかが心配で、心配でたまらなかったってこと。
そしたら彼氏に呼び出されたのだけど、それこそ何を言ってるのかわかんなかった。もちろん言葉の意味ぐらいはわかったよ。だって言ってること自体はシンプルで、
『別れる』
これだけなんだけど、どうしてって思わない方がおかしいだろうが。ここだってね、社会人になったら漠然と疎遠になってフェードアウトの可能性も考えてはいたけど、どうして卒業間近の今なんだの疑問だ。
押し問答にはなったけど別れたよ。あれは押し問答をしているうちに急激に醒めたのもあったかな。あんなに大好きだったのに別の生物になったと感じてしまったぐらい。でもさぁ、やっぱり不自然過ぎる気はしたんだよね。
カラクリは後でわかった。わかってみればアホらしいほど単純だった。あの彼氏は二股をかけてやがったんだ。それも鈴音と付き合い出した少し後からみたい。だから、あれだけ同棲をしたがらなかった理由も納得したぐらい。
それも相手は、同じサークルの鈴音の友だちだった。いや、友人と鈴音は思ってたんだよ。ここなんだけど、鈴音は最後まで二股に気が付かなかったマヌケだったけど、あの女は早くに気づいていたで良さそうだ。
気づいた上で男を奪いたくなったみたいで良さそうなんだ。そこで最後の切り札として出したのが就職だ。男は就活に苦労してたけど、自分の親が勤めている会社にコネで入れやがったんだよ。なんか会社のエライらしくて、それぐらいのコネは利いたとか、なんとか。
さらにだけど、玉の輿もちらつかせたで良いと思う。エライさんの娘と結婚すれば、その会社での前途は花開くよね。知ってみれば打算の末に鈴音はポイ捨てされていたってこと。それはそれでショックだったけど、腹立ったよ。
二股されていたのもそうだけど、それならそれで、トットと別れろよな。恋人関係にはなってたけどまだ学生なんだから、終わる事ぐらいは普通にあるじゃないか。そうしてくれていたら、次を探し出せたかもしれないだろうが。
二股で卒業間近まで引っ張り倒されたお蔭で、卒業と同時に彼氏無しにされてしまったもの。これで密かに抱いていた、就職して三年後ぐらいには結婚してやるの夢は無残に砕け散ってしまったぐらい。
ちなみにその二人がどうなったかだけど、鈴音が夢見ていた三年後に結婚しやがった。サークル仲間だから招待状を送り付けやがったから知ったんだけどね。どんな神経で鈴音に招待状を送りやがったのかは今でも謎だ。
学生時代の恋人からの結婚の夢は叶わなかったけど、社会人になって二年目に新たな彼氏が出来てくれた。会社の二年先輩だったけど、熱烈アタックに落ちたぐらい。もう社会人だから学生の時と比べ物にならないぐらい結婚を意識してた。一人目のこともあるから、他に女の影がないかも細心の注意を払ったよ。
ごく自然に深い関係になり、同棲に雪崩れ込んだ。これは決まりと思うじゃない。だけどそこで現実を見せられた。同棲となると一緒に暮らすだけじゃなく、共同生活になるじゃない。そうやって相手をより深く知ろうとするのが同棲の目的だもの。
そこで露呈したのが彼氏の偏食だ。これだって同棲前には見せなかったのに、同棲してすぐに出て来やがった。あれは偏食と言うより、
『肉キチガイ』
とにかく肉しか食べない。トンカツとか唐揚げを作っても一人で食べる。別の皿にしたって当然のようにかっさらって行く。そうしておいて残りの野菜はすべてに押し付けてくるんだよ。
今から思えばアホらしいけど、あの時の鈴音は男の肉キチガイをなんとかしようとしたんだよね。だってこの先を考えたら体に絶対に良くないもの。肉キチガイ以外は常識人だから、話は聞いてくれるし、直そうと口にもしてくれたからね。
それでも肉が出たらやはりかっさらうし、肉以外はなんにも食べない。開き直って肉無しのメニューにしたら箸もつけずに外に食べに行ってしまったぐらい。ほとほと困り果てていたけど、ついに外でもやらかしやがった。焼肉に行ったんだけど、それこそバキュームカーみたいに肉を食べまくりやがった。
鈴音は一枚も食べる事が出来なかっただけど、その時の男の目に狂気を見た。たぶんだけど、外で抑制している分が鈴音相手の時はブレーキが吹っ飛ぶんだろうって、こんなもの直しようがないとあきらめるしかないよ。
別れを告げて、同棲も解消したのだけど、それで終わりになってくれなかった。最初は復縁攻勢だ。電話やLINEがどれだけ来たことか。鈴音の部屋まで押しかけて来て大騒ぎにもなった。
それでも、なんとかあきらめてくれたみたいでホッとしたら、今度は鈴音の悪口、陰口を言い触らされたんだ。とにかく外面は良いから誰もが信じてしまったかな。言われたのは、
『メシマズ』
『ズボラ』
『浪費癖』
会社に居づらくなって退職に追い込まれてしまった。職場ラブって怖いと思ったよ。だってさ、二人が付き合うどころか同棲してるのも知られてるし、別れたって同じ職場にいるじゃない。社内恋愛を禁止にしているところがあるのがやっと理解できたぐらい。そうやって転職したのが今の会社だ。
そんな鈴音に新たな厄介ごとを押し付けようとしているのがいる。誰だって、それは親だ。何を押し付けられようとしているかだけど、お見合いだ。なんだよ、それ。自分の結婚相手まで親に決められてたまるものか。
「だったら相手を連れて来なさい」
いないんだって。
「もう幾つだと思ってるのよ」
二十八歳だ。とにかくウルサイ、ウルサイ。だいたいだぞ、お見合いに出てくような男は売れ残りのハズレじゃないか。ちゃんとした男なら相手をつかまえてるはずじゃないか。
「鈴音だって売れ残ってるでしょ」
いくら親でも言って良い事と悪いことがあるぞ。自分の娘を売れ残りって言うなよな。だけどアラサーになって焦っているのは間違いない。この歳になると、とにかく出会いが少なくなる。
職場ラブは懲り懲りだけど、アラサーになると合コンさえも誘われなくなってくる。だからだと思うけど婚活に走っているのもいる。お見合いパーティとか、結婚相談所とか、出会い系とかだ。鈴音だって検討はしてるけど、なんか気が進まない。
なんかそんなところに頼っての結婚もどうかって思うのよね。ああ、どこかに良い男は転がってないかな。鈴音はね、まだまだ恋愛に夢があるんだもの。激しく愛し合って、そのゴールが結婚でしょうが。
「会ってみなけりゃ、わからないよ。良い人なんだから・・・」
ええい、ウルサイ。
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