ツーリングの神髄

 鈴音はカフェラテを飲んだのだけど、


「面白かった?」


 とっても。鈴音が思ってたツーリングって感じだったもの。まあ、最初の方の峠道はギョッとしたけど、後は丘越えの緩やかなワインディングぐらいだったものね。それにしても気持ちの良い道が多かったけど、


「どうしてそうなのかわかったでしょ」


 はて? 具体的にどうだったかっと聞かれると困るな。


「ツーリングの醍醐味は快走じゃない。快走するにはどんな道が良いかって話じゃない」


 それはそうのはずだけど・・・そっか、クルマが少なくて、信号も少ない道って事か。


「それに道路が広ければ申し分なしでしょ」


 この辺はクルマが少ないから信号も少ないになるだけど、言われてみればそんな道が殆どだった気がする。これって、


「探したのよ。そういうルートを探すのもツーリングの楽しみ」


 さすがはツーリングの古狸。


「あのね、怒るよ」


 狭い道もあったけど、この辺はクルマとバイクで感覚がかなり違うよね。今日の道ぐらいだったら、そんなに苦じゃなかったもの。なんかアドベンチャー気分にもなったぐらいだもの。これって千草先輩がわざわざ鈴音のために、


「初めてなのに、これでツーリングが嫌いになったら責任重大だよ」


 さすがは元教育係だ。うどんも美味しかったけど、


「あれもね・・・」


 あのうどん屋は地元で評判ぐらいの店だそうだけど、ああいう店を探すのもツーリングには必要だって。これは美味しい店を探すって意味もあるけど、


「この服装で入れる店ってのが大きいかな」


 なるほど。バイク乗りの服装って武骨なんだよね。間違ってもヒラヒラのスカートで乗れるものじゃない。これはクルマのドライブと根本的に違う点になってしまう。男だって服装は気になるだろうけど、女ならなおさらよね。


 バイクでも気軽に立ち寄れて、入って、食べれる店を見つけておかないと食いっぱぐれるそうだ。ロードサイド店でも良さそうなものだけど、田舎でも休日ならすぐに満員になり、行列も出来るんだって。


「田舎ならなおさらの気がする。休日のクルマでのお出かけみたいなものじゃない」


 だから入店時刻も気を遣っておかないと、


「何回か食いっぱぐれたよ。とくにソロツーならね」


 お一人様でファミリーが行列作ってる店は敷居が高いのはそうかも。今日のうどん屋だって二人だから入りやすかったのはあるもの。


「ナビの感想は?」


 ツーリングと言えばナビって感じだから期待してたのだけど、思ったより役に立たなかった気がする。ナビ上でどこにいるかはわかるのだけど、それがどこだかさっぱりわからないんだもの。この辺は画面の大きさの関係もあると思うけど、


「地図が頭に入っていないとそんなものよ」


 ナビもナビに従って走るのならたぶん有用のはずってしてた。音声ガイドまで付いてるのはあるものね。ここを曲がって下さいってやつ。でもさぁ、そうやって走ってたら目的地には着くだろうけど、どこ走ってるのかわかんないのは同じかも。


「千草はナビを積んでいないから、最後のところはわからないけど、無しでもツーリングは出来るよ」


 そっちの方に感心したけど千草先輩は積んでないのよね。理由は振動でスマホが故障したら困るからだって。買い替えたら高いものね。もちろん千草先輩だってナビは使う時は使うけど、


「迷った時の杖かな」


 だけどそこがどこであるかを知るには地図を頭に入れておく必要があるのか。そりゃ、そうだよね。地図上でオリエンを付けるには地名を見てピンとこないとわかるはずがないのは良く分かった。でもさぁ、初めての道なら、


「だいぶ調べてから走ってるよ。それこそグーグルのストリートビューを見まくってる」


 それでも迷う時は迷うそうだけど、


「それもツーリングの楽しみよ。プラン通りに走れるに越したことはないけど、旅行の思い出ってアクシデントが起こった時の方が良く覚えてるじゃない」


 千草先輩も道に迷った挙句に目的地にたどり着かなかった事もあったそう。だから二度目どころか、三度目でやっと目的地に到着なんてこともあったのか。


「そうやって地図を頭に入れてく感じ」


 これはあくまでも千草先輩がそうしてるだけって断りを入れられたけど、どの道を選ぶかはその場の判断の部分が大きいんだって。道路案内を見たり、地名を見たり、道路の雰囲気を見たりとか。


「でもさ、道路案内だって地名で案内してるでしょ。初めてのところなんてチンプンカンプンになるのは千草だってそう。でもね、それが楽しいと思ってる」


 この辺も良く聞くと旦那さんが、それはもうってぐらいルートを調べてるみたいだけど、


「良く言われてる。ちっとはルートを頭に入れてくれって」


 そこで聞かれたんだけど、


「あれで満足できた?」


 何を聞いてるのか最初はわかりにくかったのだけど、今日のツーリングって言いかえればうどん屋でうどん食べただけなんだよね。うどん屋の近くの神社も行ったけど、後はひたすら走ってた。


「ツーリングと言っても決まった定義は無くて、どんなツーリングを楽しむのも自由なんだ。それでもね、クルマのドライブと、バイクのツーリングでは違うところはあると思ってる」


 千草先輩に言わせるとツーリングの楽しみはバイクで走る点だって。だからバイク乗りの中には、ひたすら走るだけの人もいるそうなんだ。それに対してクルマのドライブは目的地を目指し、目的地で楽しむ比重が多いぐらいだってさ。


 そうなる原因の一つに運転者と同乗者の違いがあるだろうとしてた。バイクは一人が基本だから運転者目線でツーリングをするけど、クルマなら同乗者の目線も大きくなるぐらいかな。とくにバイクなら、バイクを自分で運転して走らせるのが好きな人しか乗っていないぐらい。


 だからだとしてたけど、ツーリングの目的地もクルマのドライブとだいぶ変わって来るところが出て来るのか。


「その辺は、バイク乗りがクルマの多い道を避けたがるから、目的地も人が少ないマイナーなところが多くなるのもあると思ってる」


 メジャーなところはクルマも集まって来るし、そういうところではバイクを停めるのにも難儀させられることが多いそう。駐車場はあっても、そこにバイクが停められない事もザラだってさ。


「空いてるところなら、そこはバイクだからどうやっても停められるけど、メジャーなところは本当に困る時がある。だから、そこも良く調べてツーリングした方が良いと思うよ」


 どこまで行ってもバイク乗りは少数派だし、バイクに乗ってるって言うだけで、今ですら偏見の目はあるものね。


「千草だって、道の駅とかで大型バイクが集まり過ぎてると、少し引くかな」


 ハーレー軍団とか迫力あるものね。あの軍団はファッションもそっちに合わせてるのも多いからどうしてもだ、


「話してみると普通のバイク乗りなんだけどね」


 そうなのか。そりゃ、そうかも。ある種のコスプレみたいなものだものね。


「千草のやってるツーリングは教えたから、これからは鈴音ちゃんのツーリングを目指して楽しんでね」


 また、連れて行ってよ。

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