ハイドの真意
「魔法…魔法…これこそ…魔法…美しい…!アルト様!もっともっと魔法を…!見せてくだされぇぇ!!」
「あぁ…クソ…やっぱり厄介なことになっちまった…。おいジジイアルト困ってんぞ!」
「うるさいですぞ!儂はまだ…物足りんのです!アルトに魔法を…見せてもらわねば!」
アルトは困惑している。
遡ること数日前…
「お〜…おやおや〜。お二人一緒に起きてきましたか〜?昨日はお楽しみ、でしたね?」
とセレスが揶揄ってくる。
「もう…そんなんじゃないんだから。それに…こんな小さい子に変な気でも起こしたら私、ヤバいわよ?ほら…アルトも…」
「?」アルトには意味がわからなかった。
「お〜?分かってなさそ〜な顔ですけど…そこんとこどうなの?エレナ。ヤったの?」
「ヤってない!!」朝一番から村中に声が響く。
「はぁ…もう。セレスのせいで変に時間食っちゃったわね。ねぇアルト。今日は訓練付き合ってくれるって…昨日言ってたよね?早速…付き合って欲しいんだけど、アルトは魔法の練習でもするんでしょ?」
「いや…僕は、できるだけ魔法を使いたくないので、練習しなくても良いかなって思いまして…」
「…どういうこと?」不可思議そうにエレナが首を傾げる。
「えっと、魔法って…怖いなって思って。その、火?とか水とか、雷とかが…出てくるんですよね…?危ないし…痛そうだと思って…」
「なるほど、それなら強制はしないよ。もとより…この前みんなの前で、魔法が使えなかったって言ってたものね。もしかしたら…不得意なのかもしれないね。」
少し落ち込んで、「あはは…そうかもしれませんね。」「落ち込む必要はないよ。他にもアルトにはできることがある…かもしれないわ。だから、今から探っていこう?」「…っはい!」
「とはいえ…アルト。あなたは…武器を持てるのかしら。今まで何が武器を持ったことはあるかしら?例えば、私みたいな剣とか…あ。カルスが持ってる槍みたいなものとかね?」
「お恥ずかしながら…そう言うものは」と首を横に振りながら言う。
「そう。なら、武器屋に行きましょうか。基本的な武器は揃っているから、アルトに似合う武器があるかもしれないわね。」
そう言って、武器屋に連れてこられた。
「いらっしゃ〜い…お。エレナ嬢ちゃん?と、おぉ。アルト勇者か。エレナ嬢ちゃんは…この前武器の手入れしてっから…おおかたそこの勇者さんの武器の調達…って感じ?」
中年くらいの男性が武器を手入れしながら答える。
「はい、当たりです。パールさん。何か…良さそうなものってありますか?」
「あ…よろしくお願いします。アルト…で大丈夫です。」
「おー…そうか。じゃアルトだな。これからも武器屋、ご贔屓にな〜。てことでアルトにあった武器を試したいんだが、やっぱ振りを見な分からん!てことで、色々武器持ってくからよ。エレナ嬢ちゃんとアルトは訓練場に行っててくれ。どーせこんな辺境の村の武器なんぞ買い求めてくるやつ少ね〜だろうからな。店は閉める。」
「そこまでして…!ありがとうございます。」
「ま、良いってことよ〜。気にすんなよ。」
「エレナさん。」「何かしら?」
「武器って…どんなものがあるのでしょうか?僕…あんまり分からなくて。先に聞いておこうと思って…。」
「ざっと言うと、近距離、中距離、遠距離の三つに分かれるわね。近距離は短剣だとか、ハンマーとか、私の持ってる片手剣とか…あー盾もあるわね。中距離になると、槍、レイピアくらいかしら?遠距離は弓が主流ね。スリングショットもあるけれど、現実的ではないわ。魔法が使えるなら魔法使いは遠距離に当たるわね。
大体、分かったかしら?」
「はい、大体は分かりました!エレナ!ありがとうございます。」
「なに二人して話してんだ〜?足止まってんぞ〜?」と言いながら後ろから台車に武器を乗せまくったパールがゆっくり歩いてきた。
「凄く重そうですね…一つ何か持ちましょうか?」盾が持ちやすそうだったから、盾を持とうとする。持ち上がらない。
「あれ…ふん!…すいません。これ持ち上がらないです…。」すかさずパールがフォローを入れる。「んあ〜?あー。盾はまあ…いっちゃん重いからな。ぶっちゃけ、この村だとケビン以外持てるか?って感じの武器だ。」
ケビンさんは、盾を持ってるんだ。
「まぁ…ピークみたいなもんもあってなぁ。この世界じゃあ…ちょい年とっただけで、ぜんっぜん体が動かなくなりやがるからなぁ。俺も昔は剣握ってたんだぜ?機敏だったし。今はもうできねぇけどな!」どこか悲しい感じで、尚且つ笑いながら語りかけてくる。
「つーわけで、まあそうだな。そうこうしてたら着いたわけだが、アルト!」急に呼びかけられてビクッとする。「はい!」
「武器、試してこうぜ。握って見たいやつとかあるか?」
「どれも、かっこいいですから、なんでも…そもそも武器貰えるだけですごく嬉しいです!」
「じゃまずエレナと同じ剣でも振ってみるか?そっちの方が分かりやすいだろ?…まあ?うちのエレナは結構剣振れるから舐めちゃダメだぞ」
「じゃあ…早速見ててね。アルト。」
そう言いながら剣を抜く…と同時に木人形の間合に入る。
目の前で起こっているのに、頭の中では何が起こっているか整理できなかった。真っ二つだったからである。
ポカンと口を開けていたら「どうだった?私…結構剣使えるでしょ?」と嬉しそうにエレナが駆け寄ってきた。
「びっくり…しました。見えなかったんです。一瞬で…真っ二つに。すごい技だと思います。」
「そう?そうよね!」と嬉しそうに微笑んでいる。
「ありゃ本気だわ。」とパールに言われる。
「めっちゃ全力。スゲー斬撃だな。久しぶりに見たけど、また腕が上達してる。まあ、その、あのレベルは絶対すぐにできんから、落ち込むなよ?」と謎のフォローが入る。
ひとまず剣を持ってみた。まだ軽そうな方の武器なのに、手にはずっしり重みがあった。
「これも…ちょっと重いです。エレナさんはどうやって切ってるんですか?僕にはあんなのできないと思います。」
「まず、気持ちね。それから、手を剣と一体化させるように剣を持つの。体の一部だと思って。そすればあんな感じで…剣を触れるようになると思うわ。」ポカーンとしてる僕にパールが声をかけてくる
「エレナ嬢ちゃんはああ言ってるけどな、あれも才能と努力の賜物だからな。ず〜っと剣の修行してるんだ。ぶっちゃけ俺でも何言ってるか、どうやってやんのかはわかんねー。ただ、何の武器でも感覚で自分に合うやつが一番だ、っつーことだ。」
ひとまず振る。木人形に傷は入るが、スパっとはきれない。切れ味の悪い包丁で切られたみたいな感じになってしまった。いかにも微妙である。
「…最初にしてはまずまずだと…思うわ。」
エレナに目を逸らしながら言われる。
「フォローが下手だな。アルト。お前あんまり剣向いてないわ。」直球に言われる。とても悲しくなる。「…パールさん?その言い方はないんじゃない?」と怒気をはらんだ声でエレナが言う。
「殺気向けながら言われると怖いって。あのなあ、できねぇもん何回も降って並み以上になるより、得意なやつ振って達人になる方がいいだろ?そもそも、アルト。お前その武器でも重いなって感じてるだろ?重心がズレてる。」的確に当てられてびっくりした。「あ…そうですね。すいません…この武器でも重たいです。」としょんぼりしながら言う。
「良いって良いって、んー…となると、とりま片手剣より重いやつはだめだろ…?じゃあ弓か短剣だな。ひとまず弓でも持ってみるか?」
と言われ、弓と矢を渡される。
手に馴染んだ。片手剣より重くない。矢筒も背中なら背負えるだろう。
だが、弦を弾くのにも力が必要だった。力不足というわけではないが、弓の真価を発揮できない。当たっても、致命傷にならない。
「弓は…使えないこともなさそうね。良いんじゃない?」
「まあ、片手剣よりはマシだが。一旦短剣でも使ってみるか?」
短剣を使ってみた。軽い。僕でも使うことができる、そんな武器だった。力が弱い僕でも、短剣は手数の武器であるため、リカバーできる。これしかない。そう思った。
「あの、パールさん。一番…短剣が使いやすいと…感じました。持ちやすくて、切りやすい。僕は…これが一番良いかもしれないと感じます。」
「んー…そうだな。今見た中なら一番短剣が使えるな。決定だ。」
武器は短剣に決まった。心なしかエレナは落ち込んでいる。一緒に片手剣を使いたかったのかもしれない。悪いことをした。
「アルト。早速鍛錬をしましょう?もっと、使えるようにならないとね。」気を取り直したみたいだ。「はい、一生懸命頑張ります!」
「つってもな〜。」とパールが口を挟んだ。
「短剣って、ムズい武器なんだよ。例えば…間合い。短いからその分的に近づかなければならない。そんで、極端に軽量化されてるから、武器としても心許ないっていうのが一つだ。この辺も考慮して…鍛錬が必要だな。まあ、片手剣と似てるとこがあるから、エレナに教われることが多いだろう。」
厳しいと思った。それでも、「これしか扱えないなら、これを使うまでです。」できることをやりたいと思った。
辛い。苦しい。
想定通り短剣は苦行と言えた。まず、
「アルト、あなたに向かって剣を振るわ。防いでみて。大丈夫。本気じゃない。殺す気でやらないから。」と言われた。
弾けなかった攻撃は、全部ギリギリで止まる。
切られそうになっている。それが、怖くて怖くて、仕方がないのだ。弾けなくて、切られかけて、弾けなくて、切られかけて、の繰り返しだった。
そして、なにより「剣はシュッて振るの。短剣はちょっと違う。けど、剣と似てて…でも…勢いじゃなくて…」説明があまり分からない。感覚肌なのだろう。
ただ、すごく熱心に指導してくれて、夕方には、少し防げるようにはなった。
「上達したね。」と頭を撫でてくれた。ビクッとしたけど、少し嬉しかった。
「今日はもう遅いから、帰ろう。」と言われ、エレナと一緒に帰った。
「今日も、一緒に寝てくれますか?」と聞く。
驚いたような顔で、「ごめん、今日は寝られないの。」と返された。一人は…嫌だな。と考えて、重い足で帰る。
「お。帰ってきた。エレナ〜!アルト〜!おつかれおつかれ!ちょっと抜け出して見てたよ!」
とセレスが言う。「ちょっと厳しすぎじゃな〜い?もっとゆっくりでもいいじゃん?」
「でも、早く上達して欲しい。そうすればアルトももっと武器が好きになると思うから。あと、今日はアルトと寝られないんだけど…誰か代わりは居ないかしら。不安そうだから。」
「え…そんなの大丈夫です。僕は一人で寝られますから。だから…」と言う言葉の先を言う前に、「不安なの分かるから、だから強がらないで大丈夫。」と抱きしめられる。
「あ〜…イチャイチャしてるところ悪いんだけど…私も宿屋の看板としてここに居なきゃいけないから…どうしようかな。あ。」
「で…なんで俺なんだよ。」と、ブツクサと横でカルスが不満を漏らす。
「ごめんなさい、わがままを言ったばっかりに…。」「お前は悪くねぇ。悪いのはあの看板娘だ。なんか呼ばれたと思ったらほぼ詳細聞かずにこの部屋に放り込みやがったからな。」
ペコペコ謝る。やっぱり少し怖い。
「まぁ、でも好都合なんだよな。少し話があるんだ。」
「なんでしょうか。少し怖いですが…」
「怖くねぇよ。魔法の話だ。」
そう言われて、魔法ができなかったことを思い出す。怒られるのだろう。
「ごめんなさい、魔法できなくて…」
「それについてだが…お前は魔法ができないわけじゃない、むしろ、できすぎてる。お前には才能があるんだ。」え?と思った。
「それってどういう…」
「お前多分、ケビンに葉っぱカッターとか、木枯らしとか言われたけど、それが出なかったんだろ?」「はい…」「これって、結構初級の魔法なんだよ。いわゆる入門みたいなやつ。ただ、お前は魔法を撃った木人形に害を与えていたんだ。」「害…?そんなつもりは…ないんです!」「あぁ。魔法が上手く使えてるってことだ。別にお前の魔法が災害とか言ってるわけじゃねぇ。お前は木の上級の魔法を使ってたんだ。簡単に言えば、木を司って相手の生命力を操った。それで木人形が腐った。」
「…本当ですか?なら…僕にも魔法が…?」
「あぁ。使える。…けどな魔法が使える…っていうのは悪用される可能性があるんだ。ただでさえ魔法が使えるやつが少ないこと世界だからな。隠すために、聴衆の前では魔法が使えないように魅せたんだ。特に…あのジジイ…」
頭がこんがらがる。魔法が使えるのは嬉しい。
「なら…僕は、みんなの役に立てるんですよね…?それだけでもすごく嬉しいです。」
「まあそうだ。だが、あまり公表する必要もない。だから、明日。明日は俺が魔法の指南をする。…俺が魔法を使えるわけじゃねえが、魔法は精神力だ。俺でもできるだろう。できるだけ内緒な。」「はい!分かりました!」心が躍る。役に立てる。
「ひとまず話は終わりだ。俺は帰る。」
「…一緒に寝てくれないんです?」「そんなにガキなのかよ?一人で寝やが…」すごく悲しそうな顔をしている。「…しゃーねーから一緒に寝てやる。こんなことねーからな?」
「ありがとうございます!」そういいながら抱きついて寝る。人肌は温かいからすぐ眠たくなって、すぐに寝た。「…変なやつだな。」といいながらカルスも寝る。
「……ろ、アル…」
「起きろ、アルト。」と言われながら目を覚ました。「おはようございます。良い朝ですね。」
「あぁ。早速いくか、訓練場。」
「おい、看板娘。コイツに魔法教えてくるわ。」
「おー。了解了解。皆んなには「できるだけ内密にしてくれ。まあ…エレナぐらいには言ってもいい。ジジイはだめだ。」ん。おけ。了解了解。」
宿屋を出た。
「疲れてんだろ?おんぶでもしてやるよ。」(そっちの方が早いしな。)「本当ですか!嬉しいです!」と言いながら遠慮なく肩に乗る。
「お前…軽いな。当たり前か。まだ俺よりわけーもんな。頑張ってるよ。」
「いや…まだまだです。だって…皆さんの役に立ってませんし。」「そんなに生き急いでたら大変だぞ?もっとゆっくりいっても良いだろ。俺がサポートしてやっから。」「なんか…お兄ちゃんみたいですね。」「うっせー振り落とすぞ。」と笑いながら訓練場まで行った。
「そうだな。多分素質はあるんだ。ただ…初級の方がいいな。多分念が強すぎるんだろう。力まずにリラックスしてやってみろ。葉っぱを飛ばすイメージでやって見な?」
「はい…分かりました!ゆっくり…丁寧に」
集中…集中…
「おい!強すぎる!嵐みたいなの出来てるぞ!」
「へ…?!わぁすいません!」
「…課題は制御だな。いや…制御する必要なんてねーか?ただ、最初っからブッパしてっと疲れんだろ?ま、これで分かったろ?お前は魔法が使える。魔法が主力になるだろうな。」
ぱあぁと笑顔になる。
「嬉しいです!じゃあ、早速木で練習したいです。」というと「他のも使ってみてくれないか?木が好きなのかは知らないが。」と言われる。
「火でも使ってみればどうだ?一番スターダードな魔法なんだ。だから使いやすいかもしんねーぞ?」と言われる。
火、火、火…火は暑い、痛い…苦しい
集中集中集中集中集中集中……
「セレスから聞いたけど…え…?アルト?何その…魔法?!!」「バカ!火力強すぎんだろ!森燃えんぞ!」といい魔法の先を空に力技で変更させる。
空が爆ぜた。大地を揺るがすほどだった。
爆発で腰が抜けてしまった。「あんなの…使えたんだ。」
「あーあ…こりゃ魔法使えんのバレたな…ジジイが飛んでくる…「アルト様〜!!」…やっぱりか魔法オタクジジイ…!」
こうして今がある。そして
「もっともっと…!儂に魔法を見せてくだされ!見たいです!見たいですぞ!お願いします!勇者様!」
「え…えっと…」と戸惑っていると、カルスが手持ちの槍の柄の部分でハイドをぶっ叩いた。
「ええぇぇぇぇ!!?!」
「どうした?…これで収まんだろ…ジジイ正気になれや。いつでも魔法は見せてくれんだろ。
「そうじゃの…だがこれは好都合である…村のみんなに伝えねば!!」といい、ハイドはすぐ帰ってしまった。「あーあ…独り占めできっと思ったんだけどな。魔法。ま…しゃーねーか。」となにやらあくどい声が聞こえてきた。
「ウチの勇者様は魔法を使える!しかもすごい!すごいのだ!」村中に伝えてた。語彙力がなくなっている。ただ、自分のことを大袈裟に言われるのは少しこそばゆい。「ハイドさん?!そんなに強調しなくていいですから!ほんと暴走しちゃっただけなんで!」「ここまで謙遜されると帰って嫌味のように聞こえますぞ?使えると言う時点ですごいのだ。アルト。誇って良いのだぞ?」
「やったー!」「すごい!」と口々に声が聞こえてくる。その中で、「これで魔王も倒される!」と言っている人がいた。魔王を倒したら、帰ってしまう。でも…この人たちのためなら、魔王を倒した方がいいのかもしれない。それに、皆んなの役に立てるチャンスなのだから。
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