敬語勇者は帰りたくない

白香

気づかぬ才能



目を開けると、そこは煌びやかで眩しすぎる場所だった。どこだろう、そう思っていると声が聞こえた

「人の子よ。汝は選ばれた、選ばれたのだ。」

「…」じぃ〜っと見る。大きい。絵本で見るような神様のような風貌。ついでに翼。ここは天国なのだろうか?

いや、僕なんかが天国に行ける訳がないだろうから、きっと夢に違いない。

「汝は、勇者、勇者に選ばれたのだ。だから、我直々に転移をさせよう。」夢でも、この環境から逃げられると言うのは私にとっての天国である。少し嬉しくなる。

「汝は、現世から切り離され、異世界へ飛ばされる。役目を終えて、勇者は初めて現世に戻ることができる。これは我との約束である。勇者よ、

異世界で、魔王を倒せ。憎き憎き魔王を倒せ。」

…魔王、倒したくないなぁ。

そう思っていると、体が光に包まれる。

いつもどおり、そろそろ夢から覚めるはず。

この夢が現実なら良いのに。


カナメ村には言い伝えがある。

魔法陣に向かって召喚の魔法を唱える。すると、召喚されたものは勇者になる。勇者の器しか召喚できないが、呼ばれたものは勇者の素質がある。


「儀式を行う。今日こそ、今日こそ勇者を召喚できなければ、この村…いや、この国は終わってしまう。早く、召喚しなければ。」


「長、お言葉ですがそう言って何度も召喚を失敗されてますよね?もう何度もあなたの言葉を信じてきた。でも、叶わなかった…もう無理なんですよ。」その他大勢、批判の方が多い言葉をぐちぐち飛ばす。


「今日こそ、今日こそは…」

魔法陣に何かをぶつぶついう。

すると、いつもと違って魔法陣から神々しい光が溢れる。その瞬間大勢が期待した。微塵も期待してなかった長が、勇者を召喚できたのかと。


…怖い。大人が大勢いる…見たことない人ばっかり…キョロキョロと見回していると

「…小さい」

「おぉー!マジか!成功しやがった!」

「夢なのかな?夢じゃないよね?」

「非力そう…」

「勇者様!勇者様!勇者様!」

「でも、小さい、本当に勇者?」

「こんなガキに任せられるかよ…」

「…ッチ」


くちぐちに皆が自分に向けて何かを言い放った、怖い…何されるんだろう。

「…静粛に!!」と何やら初老はとっくに迎えているであろう老人が一喝した。

「まずは、勇者様の誕生に拍手!!」

集まっている人々が、一斉に拍手をした。

うるさい、別に拍手なんていらないのに。

老人が話しかけてくる。

「私は、ハイド、しがない老人でございまする。勇者様のお名前は…?」と聞かれる。

「…え…ええと…」名前は…あんまり好きじゃない。

「緊張などしなくても大丈夫ですぞ!さぁ、さぁ!」すごく強引だ。

「あ…在音です。ええと、ハイド…さん?よろしくお願いします?」

「勇者アルトさまの誕生である!!!」

一斉にアルトコールが起きる。ここでは一般的な名前なのだろうか。

「さまはいらないです…せめて、アルトにして欲しいです。」

「何を言うのですか勇者様‼︎敬愛を込めて‼︎呼ばせていただきたいのです‼︎」ハイドがそれは無礼だろうと言わんばかりに強く言う。


「ねぇ、アルト。あなたはいくつくらい?」自分より少し年上くらいの黒く輝く髪に少し幼いような剣を待つ女の子に声をかけられる。「こら、エレナ!失礼じゃろう?申し訳ありません…」

「いえ…その。距離を感じるよりは、フランクな方が心地よいので…だからハイドさんもさまづけはやめてほしいです」

そういうと、エレナと呼ばれる少女がまた話してくる

「長に言われたけど、私はエレナ。この村では長がずーーっと召喚の儀式をしてたんだけど、一向に呼ばれなくて。アルトが初めてなんだ。」

ハイドが耳が痛そうな顔をしている。

「ゴホン、その通りだ。きっとこれは神の恩寵か何かの原因で成功したのだろうな。勇者様…勇者アルトが降り立たれた…それだけでも嬉しいことである!」

誤魔化した。

「えとそれで、いくつくらい…でしたっけ?多分、13か14だと思います。」

「ふーん…そうなのね。あなたも、大変ね。私よりも若いもの。でも、しっかりしてる。うん、そう思うわ。」村のみんなには驚かれた。

それと同時に猜疑と心配の声が大きくなる。


「本当にこんな小さい子が勇者さまなのか」

「荷が重いんじゃないかしら…」口々に言われる。気分は良くない。何かを話そうとしても言葉が、でない。何かを言ったら反発される…気がしたから。


だが、ある男の行動で場が変わる。

「ッチ…おい!なんかいったらどうだ?勇者サマ?」そう言いながら勇者の前まで進んで胸ぐらを掴む。

「…は…離して…ください!」

ハイドさんが止めようとしてくれた。でも、「あー…ジジイ。お前も本当にコイツが100…10000%勇者と言えんのか?!」と言われ、少し吃ってしまう。

村の言い伝えなど、当てにする情報としては出来の良いものではないからだ。


「…俺はコイツの口からなんか聞くんじゃなくて、魔法とか使わせた方がいいと思う。口ならいくらでも嘘をつけるからな。魔法とかみのこなしとか…その辺見てからチヤホヤするか、捨てるかすればいいだろ。おい、お前もそれで問題ないだろ?な?」


…捨てる。それだけは嫌だ。嫌だ。嫌だ。


「捨てないで…!…ください。僕頑張ります!頑張りますから!だから、お願いします!チャンスをください!成功します!!」


「ヘッ…最初っからそれでいんだよ。んじゃま、場所整えてやれよジジイ。コイツが勇者か偽りの勇者なのか確かめてみようじゃねぇか。」

   この人…怖い、高圧的で…苦手

      怖い怖い怖い怖い

「うむ…まあ、カルスの言ってることも…一理ある…だが…アルトを怖がらせておるでないか。勇者といえど、まだまだ子供だ。お前より、年がしたでないか。謝れ。」

「いちいちうっせーな。んなもん謝りたくねぇって。…コイツが本物の勇者なら、謝ってやんよ。それでいいか?」何やら企み顔で言っている。「…もうそれで良い。お前は頑固だ。話が進まん。」「そっくりそのままお返しするぜ。」

ひとまず、決まったような雰囲気が流れる。

僕が魔法を使えることができれば良いのだろう。まだ、使ったことのない魔法を。

「少し…準備期間を頂けませんか?まだ、慣れていないので…」「逃げる気じゃねぇだろうな?見張りでも付けとくか…おい!そこの木偶の坊…アルト見張っとけ!」

「えぇ…?僕ですか?いつもの無茶振りやめてくださいよ。カルス」そう言って大柄な男が出てきた。気弱そうだけれど、外見で圧がある、僕にとっては巨人にしか見えないほど大きいからだ。「その辺で練習してこい。逃げんなよ?」


そう言って追い出されてしまった。

そこから、カルスに木偶の坊と呼ばれていた巨大な男に案内をしてもらった。

「あの…ええと、木偶の坊さん…?」

「君も…?!あ、自己紹介がまだだったね。

ケビンだよ。別に君に危害を加えるつもりなんてないから、安心してね。」

「…カルスさんと…仲、悪いんですか?」

そう聞くと、苦笑いするような感じで

「あぁ…いつもあんな感じなんだ。でも、彼も彼なりに考えてる。僕はドジだからうっかり君のことを逃しちゃうかもしれない。そういうシナリオも組んでるんだろう。」何を言っているか分からなかった。

「まあ、要するに、逃げてもいいんだよってこと、勇者なんて重荷だからね!」

と笑顔で言われる。


逃げる、逃げる… 逃げるのは、嫌い。


「…逃げ、たくありません!逃げませんから。何をすればここに置いておいてくれますか?」微かに震えている。

「あれ、思ったよりやる気だね。うーん…魔法、って言われても分かんないよね。この世界には、火、水、木、雷、闇、五つの魔法がある。

あと、魔法を使える人間はほんの一握り、もしかしたら勇者なら五属性の魔法を全て使える…かも?」

だいたい分かった気がする。

「うーん。」

火。熱い、痛い、嫌だ

水。冷たい、苦しい、嫌だ

雷。ビリビリ、痛い、嫌だ

闇。暗い、怖い、嫌だ

少し青ざめながら、「…木の…魔法を試したい…です。大丈夫でしょうか?」

「おぉ〜、君も通だね!普通の子なら火とか水

とかいきそうだけど、堅実だね!」

普通、という言葉に少し体が跳ねてしまう。

「大丈夫だよ。木なら、葉っぱカッター!とか木枯らしを起こしたり、トリッキーなことができるかな?まあ、その辺の木で作られた人形に当てるようにやってみたら?」


集中、集中、集中、集中、集中

魔力が溢れてくるのを感じる。横にいるケビンは、驚いたような顔をしている。

だが、葉っぱが飛ぶことも、木枯らしが起こる事もなかった。視界がくらっとした。

役立たずになってしまったから。

言われたことも、何もできてない。やっぱり僕には、勇者、いや魔法の才能すら無いのかも。


「ごめんなさい。木枯らしも、葉っぱも、何も出ませんでした。やっぱり、僕…ダメなのかも…」ケビンを見ながら呼びかけた。

固まっていた、何も反応がなかった。

「…ケビンさん?」と呼びかけると、やっと反応があった。「え…あぁ。ごめんごめん。ぼーっとしてたよ。まあ一旦帰ろう、ね。皆が待ってるから。振り返らないで。」と強引に返されてしまった。

これじゃあ、村の皆さんに向ける顔がない。

落ち込みながら帰った。


カルスは待ち構えていた。

精一杯、いつも謝ってたように、地面に頭を擦り付けて、

「ごめんなさい、魔法、打てませんでした。僕には、無理かもしれません。ごめんなさい。」

そう言って、顔を上げる。何やらカルスは驚いたような喜んでいるような顔をしていた。

「あー…アルト。悪かった。言いすぎた。」とカルスが頭を下げる。僕は、豆鉄砲を喰らったような顔をしていただろう?

「お前…いや。アルトの漢気を買いたい。逃げなかった。それだけでもすごい。…そこの木偶の坊から逃げてもいいよって言われただろ?」後ろでケビンがうんうん。と頷く。


「だから、認めたい。お前が、勇者だって。」

「嫌です。」「……は?」

「僕は…条件の魔法すら成功させてません。そんなやつに…価値は…ありませんから。」

カルスが近づいてくる。

「殴られてぇか?お前はもう村の一員だ!んな魔法なんて、最初だろ?成功させる方が難しいわ!勇者!誇れよ。」

むちゃくちゃだ。でも

「…いいんですか?ここに…いても」

「あぁ、よろしく頼むよ。アルト。村の全員が、出迎えてくれるよ」

「カルス。それは儂のセリフだろう」

「うっせージジイ。」


あぁ。温かい。思ったより皆怖い人じゃ無いのかも。でも、まだ…。そう思うと、安心から眠たくなってきた。「たく、ガキはおねむの時間か?まだはえーぞ。…あぁ。コイツの家どーにかしねぇといけねぇのか。」

「それについては、宿屋の一室を借りようと考えておる。儂がもう手配しておる。」

エレナが近づいてくる。

「私と一緒に、宿屋に行こう?案内してあげるよ。」「ありがとうございます。」


「あの、エレナさん。」なにかしら、と返事される。「連れ出してくれて、ありがとうございます。大勢…というよりは、うるさいところが少し苦手で…。」

「そうなのね。私も、ガヤガヤしているところは嫌いなの。お互い得をしたってことでしょ?嬉しいわ。」

「それで、魔法はどうだったの?できなかった…って言ってたけど、何か掴めたりした?」

そう聞かれると、喜べない。暗い顔をしながら

「いえ、その、木の魔法を試したのですが、木の葉とか木枯らしを出せなかったんです。だから、魔法が向いてないのかなって…」

「まだ、他の4つは試してないのね?それなら、明日私と一緒に訓練しましょう。私も、今は魔法は使えないの。だからアルトの横で剣の練習をしたい。」あまり、他の四つは使いたく無い、でも、使わないわけにも、いかない。

「また、明日ですね。」「そうね。」


「到着。ここが宿屋よ。えっと…受付…セレスは、」

「あ!エレナ??ハイド村長から聞いてるけど、なんか勇者連れてるんだって…?ん…?もしかして、そこの小さい子が噂の勇者くん?」

「ええ。そうよ。噂のね。」

まじまじ見てくる。怖い…

「カワイイーー!!」 「…え」

「召喚に立ち会いたかった…宿屋の看板娘じゃなかったら絶対見に行ってたっ…!一生の不覚だよ〜…」

「ふふん。いいでしょ。」「いいな〜!」

「え、名前!名前は?あ。アタシはセレス!宿屋の看板娘やってるよ!」

「在音…です。よろしくお願いします」

「勇者…アラト…うん。いいねぇ!」

「何がいいのかはさておき、部屋の案内をしてくれないかしら?」

「そうだった…ついテンションがあがっちゃって…ごめんごめん!部屋の紹介?するする〜!あとはアタシだけでも大丈夫だから、エレナは帰っていいよ!」

「…いい予感がしないから、私も残るわ。」

チェッ という音が聞こえてきた。

「えと、お二人は…仲が良いのですか?」

「そうそう!アタシたちは同年代で友達…見たいな?でもアタシに戦闘能力はないの。非戦闘員!だからエレナとか〜戦える人を癒したり、治療すんの!まだまだ見習いだけどね〜。」

ふんふん、と言いながら聞き入った。


「部屋はここだよ〜」と言いながら開けられた部屋を見る。ベットもあるし、机もある。すごく整った部屋で感動しそうになった。

「いや〜本当ならこーんなみすぼらしい部屋じゃな「すごく…良い部屋をありがとうございます。嬉しいです。」…え」

「僕のために…こんなにも、良い部屋を…これは頑張らないといけませんね。」

「あぁ…そ…そう?気に入ってくれたなら良かったよ。エレナもこれで満足よね。……エレナ?」

「あ、そうね。満足よ。」

「…なーんかそっけないよね。隠してる?」

「いや。そんなことはないよ。大丈夫。まあでも、私がいなくても大丈夫そうだね。じゃあ私は帰るよ…」 

「え、帰る…んですか?」

「アルト、どうかしたの?」

「1人は…怖いんですだから、お願い、一緒にいて、ください」と泣きながら言う

「慕われてんねぇ〜」とセレスがエレナに茶々を入れる。「そんなんじゃないから!…まあでも、初めての土地で不安だものね。良いよ。アルト。」

「本当…!ですか!ありがとうございます!すごく…嬉しいです!暗いところが…苦手で…」

(苦手なもの…多いわね?)

「悪いけど…ベットは一部屋一つしかないんだよねぇ〜。ウチの宿屋。」

「あ!それなら…全然大丈夫です!」

「床で寝ますから!平気、です!」

2人が固まる。

「なんで…床で?」

「エレナさんの寝るところを取るわけにはいきませんし…僕が一緒に寝ても狭くなりますし…僕が床で寝れば良いじゃないですか?」

「それなら、私が床で寝るわ。客人を床で寝させるわけにはいかないし。」

「え!それは…ダメです!エレナさんこそベットでゆっくり寝てくださいよ!僕は大丈夫…近くにいてくれたら良いんです!」


「アルトくんくらいとエレナなら、一緒に寝ても大丈夫だと思うよ〜?」

「でも、狭くなりますし」

「そんなの…良いよ。別に嫌ってわけでもないよ。一緒に寝よう。」

「…わかりました。じゃあ…それで。」としぶしぶ納得した。


「狭くないですか?」

「全然大丈夫だよ。それより、遠慮しないで大丈夫だから。」そういいながらアルトを抱きしめる。

「エレナさんは温かいですね。ポカポカします。あ、おやすみ…なさい。」とすぐに眠ってしまった。

「…あなたは冷たいのね。疲れたでしょう。おやすみなさい。」




「なぁ、木偶の坊。あの本当か?」

「うん。カルス。間違えてないよ。」

「見間違えじゃなきゃ…あれはっつーことになんだが?」

「合ってる。合ってるよ。彼自身は、木の葉とか木枯らしとか出せてないから、木人形に傷をつけられなかった、と思って見ていなかったけど、ほら、これ」

「…ケビン。俺を揶揄ってるんじゃねぇよな?元からこんな…腐ってる木人形…があるわけねぇか。あいつの実力はホンモノ…っつーわけだな?」

「木は…元を辿れば生命だから、腐らせるって言うこともできるのかも。いずれにしても、恐ろしい才能だと思う。」


「あらかじめ、ケビンに案内役をしてもらって良かった。この才能を…あのジジイにでも知られたら…たまったもんじゃねぇ。」

「彼…いや。アルト君は紛れもない勇者だろう。できるだけ丁寧に扱わないといけないよ。カルス。」

「…俺の口が悪いのは今に始まったことじゃねえだろ?これでもアイツのこと気にかけてるんだぜ?」


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