第53話 生徒たちの文化祭:真実の時

演劇公演が終わった。


夕方近く。


生徒会室に、主要メンバーが集合した。


委員長、月美、北条さん、美原、野崎。


他のメンバーも集まっている。


委員長が、口を開いた。


「これから、中央広場で真実を公表します」


全員、緊張した表情。


「……はい」


月美が答える。


「覚悟はできてる」


北条さんが言う。


「システム上のデータも全て公開準備完了」


護道が報告する。


「真実の公表は出版社側も合意を得ているから大丈夫だ」


野崎も頷く。


委員長が、続ける。


「桜井くんの女装開始からはや半年。みんなよく頑張りました。今日、この成果を見せられました。あとは、正々堂々と真実を伝えるだけです。誇りを持って、胸を張って、ステージに立ちましょう」


全員が、声を揃える。


「はい!」



中央広場の特設ステージが設置されている。


たくさんの生徒が、制服で整列し始めた。ここでは全員集めていない。それは出し物があるクラブや展示の対応があるメンバーもいるからだ。


ただ、学校全体に、可能ならできる限り集まってほしい、とアナウンスした。


それに呼応する形で、かなり多くの生徒が集まってくれている。嬉しさが込み上げてくる。


@oto_fesの大画面モニター。


観客が、続々と集まってくる。ざわめいている。


委員長と月美、ステージの前へ。


後ろに、集まってくれた生徒たちが並ぶ。


彼らにスポットライトが当たる。


観客、静まり返る。


委員長が、マイクを握った。


「本日はご来場いただき、ありがとうございました」


観客、拍手。


委員長が、続ける。


「ここで、皆様にお伝えしたいことがあります」


観客、さらに静まる。


ざわめきが止まる。


月美は、マイクを受け取った。


深呼吸。


「改めてご挨拶させてください。僕は、音光学園生徒会長、橘秀一です」

「私は、SNSでは、吉野月美、として活動していますが、本名は音光学園2年A組の桜井美月です」


二人の声が会場に響く。


観客、ざわつき始める。


月美は、一瞬の沈黙。


そして。


「そう、私たちは……音光学園の男子生徒です」




一瞬の静寂。


そして、驚きの声。


「え!?」


「本当に!?」


ざわめきが広がる。


「今年の春……理事長から告げられました。音光学園は……廃校になると。生徒数の減少、財政難……このままでは……」


委員長の声が震える。あれから全てが始まった。全く認知されていなかった音光学園に気づいてもらわなければならない。そのためには普通なことをしていてはいけない。度肝を抜くようなことが必要だった。


月美が、続ける。


「そして、思いついたんです全校生徒で女装して、文化祭を開こうという前代未聞の無謀な作戦を」


月美は一瞬、あの時のことを思い出していた。


(いきなり女装をしろって言われたときは正気かよって思ったよな)


委員長が、引き継ぐ。


「最初は、学校の先生がた、そして僕と美月の二人だけでした。このアイデアを……MHKに持ち込みました。本当に奇跡的に……快諾していただけました」


委員長は、あの日のことを鮮明に覚えていた。認知を上げる方法として、SNSやブログ、インフルエンサーなど色々なアイディアを考えた。でも、どれも陳腐なものに見えた。もっと認知してもらわないと。全国的な認知に繋げられたなら最高だった。それこそMHKとか。


そう思ったときに、委員長の頭の中で色々なものが噛み合った。これだけ前代未聞で無謀な作戦を最初から最後まで走りきったらドキュメンタリーになる。


委員長は、徹夜に近い勢いで企画書を書き上げた。そして、その企画書を持って、MHKに直談判に行った。


当然門前払いを食らうものと思っていた。でも、そんなことはなかった。


あれよあれよと言う間に、快諾を得られたのだ。奇跡だと思った。それとともに。


もう戻れない──


委員長の覚悟が決まった瞬間だった。


月美が、頷く。


「私は、まず……一ヶ月間、潜入トライアルをしました。女装して、学校生活を送る……」


委員長が引き継ぐ。


「何処かで聞いたことある話だとおもいませんか?そう。『ほしみのひみつ』です。本作は本学の生徒春野咲希先生が、私達の無謀な作戦を漫画化した作品なのです」


「そこから……この無謀な作戦はどんどん進化していきました。出版社さんとMHKさんと音光学園のコラボが実現」


「次に、クラス全員で女装しました。そして……学校全体へ。全校生徒が……協力してくれました。SNSで情報を展開し……商店街の皆さんも……協力してくださいました」


「こうして、無謀な作戦が完成を迎えたのです。一歩間違えれば大惨事になっていたかもしれません。でもこれだけ多くの方々にご足労いただけて、僕は感無量です」


委員長の声に、静かな感動が滲んでいた。MHKに企画を持っていって受け入れられて、腹をくくってから半年。


委員長は我武者羅に立ち向かってきた。少しずつスケールアップさせていった。丁寧にかつ大胆に。


ここまでこれたのは針の穴を通すような作業だったように思える。でも来られた。


そのうえで。


委員長は、これだけは言わなければならないと思っていた。


「……皆さんを騙したと言われても、仕方ありません。事実としてそうですから」


委員長の表情が引き締まる。この作戦は、日本中の人を「騙す」企画だった。どんなに言い繕ったとしても嘘をついていた事実は変わらない。


「でも……この状況で……背に腹は代えられませんでした。僕は……覚えています。去年の文化祭は……保護者しか来ない、閑散としたものでした。それが……今日の文化祭は……全く違うものになりました」


月美が、頭を下げる。


「これは……みんなのおかげです」


月美は心からそう思っていた。美月の、2-Aの、音光学園全員の、MHK、出版社、音光学園の先生方、そして音光商店街のみんなの協力のおかげでここまで来られたのだ。


「騙して……ごめんなさい。それでも……ここまで来られたことに……僕は……嬉しいんです」


「本当に……ありがとうございました」


観客、静まり返る。


数秒の沈黙。


そして。


誰かが、拍手し始めた。


徐々に広がる。


やがて、拍手喝采。


観客、スタンディングオベーション。


「すごい!」


「よくやった!」


「感動した!」




@oto_fesの大画面モニター。


画面が変わる。


「100日間、ありがとうございました」


カウントダウン『0日』


花火の映像。


音楽が流れる。


観客、さらに拍手。


ステージ上。


全校生徒で、一礼。


拍手、さらに大きくなる。


何度も一礼。


月美は、涙があふれた。


(言えた……みんなの前で、真実を……拍手……受け入れてくれた……この半年は決して無駄じゃなかった……ありがとう……みんな……)



ステージを降りる。


全校生徒、抱き合う。


「みんな……やったね……」


月美が言う。


「ああ……やったな」


北条さんが答える。


「お疲れ様です」


委員長が言う。


「データ上も、大成功です」


護道が報告する。


「……よかった」


野崎も、安堵している。



月美は、周りを見渡した。


みんな、笑顔と涙。


半年の努力が、成果が受け入れられた瞬間。


(やりきった……みんなと一緒に……最高の半年だった……)


夕日が、校舎を照らしていた。

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