ひとつひとつの言葉が、風景をちいさく結びながら進んでいく連作でした。季節の移ろい、暮らしの気配、ふと胸に触れる感情が、たわんだ水面のようにゆっくり揺れています。読み進めるうちに、景色そのものよりも “その場にいた心の手触り” が浮かび上がってくる感覚がありました。冬の澄んだ空気、旅のはじまりの高揚、日常の疲れ、ささやかな温もり。それらがあまり結びつきすぎないまま並んでいるからこそ、私を含め、読んだ人もそれぞれ思い浮かべるでしょう。自分の景色や記憶と重ねられる心の余白を