星乃海学園と図書室の守護者達

知襟ナツ(ちえりなつ)

第一章 鍵が開いた扉

1. 運命の鍵


十月の終わり。秋の夕暮れは早く、午後五時を過ぎればもう校舎は薄暗くなる。


私立・星乃海学園の旧校舎は、本校舎の裏手にひっそりと佇んでいた。煉瓦造りの古い建物で、創立当初からあるという歴史的建造物。今では資料室や倉庫として使われるだけで、生徒たちが立ち入ることは滅多にない。

高校2年生の結城あかりは、その旧校舎の廊下をゆっくりと歩いていた。


「図書委員の仕事も大変だな…」


手には古い蔵書目録。旧校舎の資料室に保管されている古書のリストを確認する任務を、図書委員長から任されたのだ。


あかりは特別目立つタイプではなかった。成績は中の上。部活は帰宅部。友達は数人いるが、グループの中心にいるわけでもない。ただ、本を読むことが好きで、図書委員を続けている。それだけの、ごく普通の女子高生だった。


旧校舎の廊下は静まり返っていた。窓から差し込む夕陽が、埃の舞う空気を橙色に染めている。

資料室への扉を開けようとした時、何かがキラリと光った。


「ん?」


足元を見ると、床に何かが落ちていた。

しゃがみ込んで拾い上げる。

それは、鍵だった。


「綺麗な鍵…」


銀色の鍵は、夕陽を受けて神秘的に輝いていた。柄の部分には月と星の紋章が精巧に刻まれ、まるで工芸品のような美しさだった。持ち手の部分には、見たこともない文字が刻まれている。


「これ、誰の鍵だろう?」


周りを見回したが、誰もいない。旧校舎に来る生徒など、ほとんどいないはずだ。

職員室に届けようと思った。でも、なぜか手放せなかった。鍵がじんわりと温かく、まるで手に吸い付いているような感覚がある。


「変な感じ…」

その時だった。

声が聞こえた。


『選ばれし者よ』


「!?」


あかりは驚いて周りを見渡した。でも、誰もいない。


『導かれし者よ、扉を開け』


幻聴だと思った。疲れているのかもしれない。でも、鍵は確かに脈打っていた。まるで心臓のように、ドクン、ドクンと。


あかりは怖くなって、鍵をポケットに押し込んだ。そして急いで資料室の仕事を済ませ、旧校舎を後にした。


家に帰る電車の中でも、鍵のことが気になって仕方がなかった。ポケットの中で握りしめた鍵は、相変わらず温かかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る