夜明けの天使
Kay.Valentine
第1話
茅ケ崎のマンションから湘南電車で
平塚に通っていた頃のこと。
七時四十分の電車に乗り遅れると
遅刻するので
いつも二十分ぐらい早めに
駅に着くようにして
ホームのベンチに座り
ぼんやりと電車を待つ毎日だった。
あるとき目の前を女子高生が通り過ぎ
ベンチのすぐ左に立ったことに気が付いた。
電車の来る五分ぐらい前だ。
なにげなく横顔に目をやった.
知性を感じさせる眉
穏やかな瞳
引き締めた口元
優しさの中に凛々しさを秘めている。
制服姿で肩からバッグを下げ
食い入るように本を読んでいる。
茅ケ崎からの下り電車とはいえ
最近は通勤客が多くホームは混んでいる。
まもなく電車が滑り込んできた。
女子高生はすぐ横にいたので
同じドアから乗車することになった。
みんな後ろから押されるように流れ込む。
乗客の流れの具合から
少女の横に立つことになった。
夢中で見ている本が何なのかが気になり
ちらっと見ると英単語の本だった。
英単語が左のページにあり
右のページに日本語訳が載っている。
英単語の程度から高校三年生だろうと思った。
少女は英単語をひたすら暗記していたのだ。
電車が相模川を渡るとすぐに平塚に着き
ほとんどの乗客はそこで降りる。
人の流れに身を任せて駅の外に出ると
いつものように
十五分ほど歩いて職場に向かった。
少女と同じ制服の一団が同じ道を歩いている。
この先の高校に通っているんだな。
そんなことを考えながら
彼女たちを追い越して足早に歩いた。
爽やかな気持ちになり
その日一日、仕事に精が出た。
仕事帰りにときどき
行きつけのカウンターバーに寄るのだが
その日は仕事帰りに久しぶりに飲みに行った。
そしてマスターに朝の少女の話をした。
「今日はなぜか一日中、気分が良かった」
「じゃあ、
特製のカクテルを作ってあげましょう」
職場で渡された書類に目を通していると
ほどなく「はい、できました」とマスター。
テーブルの上をカクテルが滑ってきた。
白く透き通ったピュアなカクテルが
細くていかにも壊れやすそうな
グラスに入っている。
ほんのりと花のような香りがする。
ひとくち口に含むと、甘いけど
ちょっと酸っぱい味覚が口中に広がった。
マスターが言った。
「特製カクテル『夜明けの天使』です」
夜明けの天使 Kay.Valentine @Kay_Valentine
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