2話 身内の配信ってどういう気分で見ればいいんだろうね?

 結論から言えば、白亜の配信は、様子見ということになった。


 母曰く、使い魔の配信というものが、前例がなくて、判断をしかねているということらしい。

 今の時代、神社や寺の公式の動画自体は、存在しているが、白亜は使い魔であることを公開して、公式チャンネルとして配信しているわけでもなければ、内容は雑談(時々料理)だ。


 そのため、ひとまず、巫女であり、主人である瑞希の管理下であれば、このまま配信を続けることは許可された。


「もう疲れた……」


 代わりに、瑞希は、白亜の配信の内容を確認することとなったのだが、画面に並ぶ大量の動画。

 この全てに一度、目を通す必要がある。


「3年もやってたんだ」

「せやなぁ。紬希つむぎが、神社の方にいることが増えた頃からやったし」


 三十分から一時間の配信で、数日に一回程度。

 内容は、本当にただの雑談。


 白亜自身、機密事項や問題のある発言はした覚えがないと言っているが、チェックしないわけにはいかない。

 配信者本人と一緒に、毎日確認しているが、真面目に内容を吟味すればするほど、頭が痛くなってくる。


「――会話の中身がない……!」

「なんや、参考書でも欲しかったん? おいくら?」

「いや、だってさ! 本当に、相談がなかったら、天気の話とかだし……!」


 身内であっても、この配信の会話内容だけ出されても、白亜だと特定はできない。

 それだけ、うまく話していると言えば、その通りなのだが、内容についてチェックする側からすると、面白みがない。


「あと、私のこと、”タニシ”って……! 吽野は、”月見”なのに……!!」


 配信の中で、白亜がルームシェアをしている話を出した時に、吽野のことは、好きなそばの種類から”月見”と呼んでおり、瑞希は”タニシ”と呼ばれていた。

 理由は、こたつや布団から、なかなか出てこないから。

 全くひどい理由である。


「瑞希、甘きつねやん。好きなそば。名前被るねん」

「白亜の名前が、たぬきだのきつねだの言ってるからだよ」

「”西のたぬきのきつねそば”な」

「長いっ……!!」


 白亜の名前も、大概ではある。

 だから、視聴者たちにも”きつね”と略されているのだろう。見た目も、白い髪に切れ長の目、大きな狐耳と尻尾で、狐らしいし。


「それにしても、本当に、なんで配信なんて始めたの?」


 昨今、神社や寺は、不景気なところも多く、神主が不在という場所も多く存在する。

 幸いなことに、鎹杜神社の経営は、何とか回っている。それでも、裕福というわけではない。


 二割。とは言っていたが、もし、経営の事を考えて、配信をしていたらと、罪悪感を覚えてしまう。


「普通に、おもしろそうやったからやで?」


 こてんと首を傾げながら答える白亜に、嘘は無さそうだ。

 本当に、好奇心で配信をしてみたのだろう。


「ついでに、小遣いになればええなぁ……くらいや」

「そ、そっか」

「ただ稼ぐなら、紬希たちの仕事を手伝うたり、妖怪しばいてきたりした方が、手っ取り早いんやから、心配せんでええて」


 お布施や賽銭などの収入源の他にも、人に迷惑をかける妖怪を退治することで、国から報酬を得ることもできる。

 これは危険なことあるし、鎹杜神社の使い魔は、それほど積極的に行っていない。


 そもそも、過去に妖怪たちが散々人里で暴れた結果、当時の使い魔たちが制圧したことで、最近は随分と大人しくなっている。

 そのため、人に迷惑をかける妖怪そのものも少なく、その手の仕事は少なくなっている。


「まぁ、瑞希がダメ言うなら、配信はやめるけど……」

「ううん。別に、今のところ問題があるわけじゃないし、続けていいんだけど……色々衝撃がさ……」


 身近な人に、配信者(そこそこ有名)をしていることを教えられた時に、なんといえばいいものか。

 しかも、教えてもらう前から知っていたわけでもなく、その配信を見ても、『おもしろい!』とならなかった時のこの感情。


 感心はしているけど、申し訳のなさも入り混じる、この感覚。

 ただの知り合いなら、お世辞でも口にするところだが、あまりに身近過ぎて、逆に何も言えない。


「あと単純に、現代に馴染み過ぎててすごい。私より現代人してる……年齢三桁なのに……」

「年の功やなぁ。時代の大きな変化にも、もうだいぶ慣れたで」

「わー……レベルが違い過ぎてて、わからない……」


 流行も数十年で回ると言われているが、それが数百年単位で話をされては、もう想像もつかない。

 白亜たちの年齢を考えれば、何十周したのだろうか。


「というか、白亜的には、私に見られてるのはいいの? やりにくいとかないの?」

「ないなぁ。神社で、相談されてるのなんて、よく見られとるし」

配信これが説法レベル……一応、全世界配信なんだけど」


 そう言われれば、確かに、白亜の配信の話し方とかは、氏子の人たちと話している様子にも似ている。

 近所の人たちか、ネットの顔の知らない人たちかの違いということか。


「そういえば、どっかの誰かさんは、授業参観とか運動会で、緊張してずっこけるタイプやったなぁ」


 こちらを意地悪するような笑みで見てくる白亜に、顔を逸らす。


「うるさいなぁ……白亜たちが目立つのが悪い!」


 国から禁止されているから、半ば仕方ないとはいえ、使い魔は皆、一様に、一目で人間ではないことが分かるような容姿であり、物凄く目を引く。

 小学校の時なんて、白亜たちのせいで、別のクラスからも注目されることも多かった。


 白亜たちが気にしてなくても、見られる方は気になるのだ。


「人のせいにすんな。僕らにええところ見せようとして、失敗したんやろ? 瑞希がポンコツなことは、昔からよく知っとるから、気にしぃな」

「ポンコツって言うな!! ちょっとは成長してるって!」

「なら、朝もひとりで起きてきぃ」

「……人って、得手不得手あるじゃん?」


 目覚ましはかけてるもん。朝になると、何故か止まっているんだもん。

 私、悪くない。


「諦めんなや」


 少しだけ苛立った白亜の声に、パソコンにヘッドホンのコードを挿して、耳につけるのだった。

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