第22話 第ニ階層:ししゃもの微笑み 焼かれし者たち!?
食器棚の奥に広がる異世界ダンジョン。
第一階層のしらす地獄を突破した瑠散と周東さんは、次なる階層へと足を踏み入れていた。
そこは静寂と魚臭の谷。
空気は湿って生ぬるく、壁には干物のような影が何百とぶら下がっている。
まるで市場の悪夢みたいな光景だ。
「ここが第二階層、《ししゃもの微笑み》ね」
周東さんが、いつもの冷静な声で呟いた。
その後ろでは、小さな三つの影がぴょこぴょこと並ぶ。
「ママ、なんか笑ってる魚いるー!」
「やだもう、キモかわいい〜!」
「あれ食べたらサクサクしてそう」
三人の娘たちニシ・キタ・ミナミ。
それぞれ違う色のリボンをつけた小さな
「油断しないの。ここは焼かれた者たちの階層よ」
その言葉が終わるより早く、ぬめり声が洞窟の奥から響いた。
ぬるっ……、ぬるっ……と地面を滑る音。
次の瞬間、無数のししゃも兵団が現れた。
全員がうっすら笑っている。
だがその笑みには、どこか人間じみた悲哀があった。
「え、なんかちょっと怖いんですけどこの魚たち」
瑠散が身構えた瞬間
パリッ。
乾いた音と共に、彼らの焼かれ済みの皮が破けた。
そこから覗くのは、まだ熱を持つ金色の身。
「うわああ!全員サクサクしてる!焦げてるやつが特に速い!」
「ははっ、あれは強焼き個体ね。味が濃いわよ」
周東さんがメモを取りながら微笑む。
「いや、味の話してる場合ですか!?」
次々と突撃してくる焼き魚たち。
槍を構え、スパイスの香りを漂わせながら、サクサクと大地を駆ける。
「ニシ、背開き構え!」
「キタ、骨抜きの術!」
「ミナミ、味ぽん防壁展開!」
三姉妹が一斉に詠唱する。
——ゴォォッ!
火花とともに広がる炎の料理魔法。
焼きたての香ばしい香りが広がり、ししゃも兵団が次々ときれいな盛り付け状態で倒れていく。
「ママ〜、味ぽん足りない〜」
「キタ、あなたまたかけすぎ。バランスを考えて」
「ミナミ、焦げ目チェックして!」
戦場なのに、まるで家庭のキッチンのような空気だ。
瑠散は苦笑しながら剣を構える。
「周東さん、戦闘中にお弁当の献立考えるのやめません!?」
「お弁当っていうかこの子たち、学校が休みだと給食ないでしょ?
だからね、母親として準備しとかないと」
「いや、母性で戦うのやめてくださいよ!?」
だがその瞬間、異変が起こった。
最後の一匹のししゃもが、焼け落ちる寸前に口を開く。
『……我らは……焼かれるために、生まれた……。
けれど……母の味を……知らぬまま……散る……』
低い、くぐもった声。
炎の中で笑うように、ししゃもが崩れ落ちた。
静寂。
炎が消え、残ったのは皿に並ぶししゃもの群れと、ほんのりとした塩の香り。
周東さんはしばらく黙って、それを見つめていた。
「母の味、か。
きっと、誰かに食べてもらいたかったんでしょうね」
「やっぱ、あんた強ぇわ。母としても、人としても」
瑠散がそう呟くと、彼女は静かに頷いた。
その横顔には、戦いの後の温かさが滲んでいた。
「さ、冷めないうちに詰めちゃいましょ。お弁当、できたわ」
「戦利品が弁当て!」
三人の娘が嬉しそうにランチボックスを掲げた。
「第二階層、クリア。
……次は、にじますの楽園よ」
瑠散は息を呑んだ。
その先に待つのは、より強く、より鮮やかな敵たち。
だが、彼の隣には、三人娘と最強の母がいる。
負ける気はしなかった。
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