第3話 医者の友達
僕はある公立病院で IT スタッフ として働いている。
いわゆる「IT 雑用係」だが、医師や看護師と同じく夜勤も回ってくる。
IT システムが止まれば、すべてが終わるからだ。
この話は、僕と友人の体験だ。
友人は高校時代からの付き合いで、今は医師。
当時、彼はまだ 新米医師 だった。
重い仕事に追われていた。
僕の方はというと、ほとんどモニターの前で待機。
僕の作業室は 4階。
手術室は 5階。
よく、ベッドが移動する音が聞こえてくる。
その夜は事故だった。
重症患者の手術。
友人は 助手医師 を任された。
手術は長引いた。
深夜0時を過ぎる。
友人が IT 室 に入ってきた。顔は暗い。
「患者さんが亡くなった」
彼にとっての初めての経験。予想外の出来事だった。
僕はただ慰めるしかなかった。
炭酸飲料を飲みながら、話し込んだ。
30分ほど経ち、二人でトイレへ。
手を洗っていると、
鏡の前に立っている人がいた。顔は不機嫌そう。
きっと患者の遺族だろう。
「順番待ちの人がいる。そろそろ出よう」
僕は友人に言った。
友人は顔を洗った。
石鹸で。
タオルで拭いた。
表情は暗いままだ。
遺族と目を合わせるのが怖かったのだろう。
すると、主任医師 が入ってきた。
大声で、汚い言葉を吐きながら。
「お前、ここにいたのか! みんな探してるぞ!」
友人が振り返る。遺族も振り返る。
「逃げてきてすみません」
友人がうなだれて謝った。
「俺はお前じゃねぇよ」
主任医師は怒鳴り、遺族に向かって叫んだ。
「お前だよ、ついてこい」
遺族は主任医師について行った。
僕たちは IT 室 に戻った。
そこで友人が言った。
「あのトイレにいた人……さっき死んだ患者さんだった」
さらに30分後、
友人の携帯が鳴った。
「患者さん、無事です」
僕たちは顔を見合わせて、ほっとした……はずだ。
それで僕は思う。
時々、僕たちは小さなことに気づかなくなる。
不満に流されて、
人生の大事な何かを忘れてしまう。
彼のように、友人を追って下まで降りてきてしまったら。
主任医師が迎えに来なければ、
彼は二度と戻れなかったかもしれない。
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