第2話 彼の家
テレビ番組が人の人生に過剰に介入してしまうことは、これが何度目だろう。
特に「カメラを持って幽霊を撮りに行く」タイプの番組だ。
そのとき、クラブの仲間十数人が「幽霊が映ったテープ」を欲しがった。
「水が多いと葉っぱも流される」――そんな理屈で、
僕も巻き込まれるしかなかった。参加したくはなかったのに。
うちのクラブは格闘技のクラブで、幽霊見学クラブじゃない。僕はそう思っていた。
結局、僕たちは動き始めた。
廃屋を一軒探すことにした。
当時のインターネットはまだ遅く、
Y*E は8分しか再生できなかった。
それでも撮影に出かけた。
でも、何もなかった。そう、何も。
だって、その廃屋はただの廃屋で、「なぜ廃屋になったか」は誰も言っていない。
本当に幽霊が出る家なら、すでに誰かが撮影して YxxxxE にアップロード済みだ。
それでクラブのメンバーは意気消沈し始めた。
そこで僕たちは新聞記事を読み始めた。
「自宅で首を吊って死亡」
記事には場所が書いてあり、近くだった。
あぁ……クラブの仲間たちがニヤリと笑った。
数日後、僕たちはその家へ向かった。
9人――案内人を含めて。
人数が多すぎたので、家に入ったのは 6 人だけ。
僕は外に残り、先輩2人と一緒にいた。
車で待機。
突然、先輩2人が「タバコ吸ってくる」と出て行った。
僕は車に一人残された。
二人は車に寄りかかり、黙ってタバコを吸っている。話さない。
長く待っても戻ってこないので、僕は車を降りた。
遠くで二人がタバコを吸っているのが見えたので、歩いて近づいた。
――でも、車に寄りかかっていたのは誰だ?
近づいて、二人の横に立ち、黙った。
振り返らないように必死だった。
やがて、
車に寄りかかっていた男が歩いてきた。
「タバコ、いる?」
先輩が訊き、火のついたタバコを差し出した。
男はそれを受け取った。
僕が横を見ると――
目が上を向き、舌が口の外にだらりと出ていた。
それでも必死に、タバコを舌の溢れる口に押し込もうとしている。
時間がゆっくりと過ぎていった。
やがて、家に入った仲間たちが戻ってきた。
顔は不満げだ。
「やっぱり何もなかった」
そう言って、僕たちは車に乗って帰った。
「結局、全部が仕込まれたフッテージだったんだよ」
外で一緒にいた先輩の一人が、淡々とした声で、表情を変えずに言った。
「同感です」
僕も同じトーンで答えた。
結局、
僕たちのプロジェクトは盛大に失敗した。
8分間の挑戦動画なんて、プロには敵わない。
「だって何もなかったんだから」
みんながそう結論づけた。
でもね、
少なくとも僕は気づいた。
もし、ある日、知らない集団があなたの家に押し入って、
カメラを回しながらあちこちを荒らしたら――
あなたは怖がって逃げ出すよね?
あの家の持ち主も、
きっと驚いて、逃げ出したんだ。
そう、きっと怖かったんだ。
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