第一章 スーパーロボット、異世界に立つ!
第1話 まっさらな異邦人
目が覚めたら、知らない天井が広がっていた。
「…………ここどこだ」
体を起こして周りを確かめると俺はどこかの家屋に寝かされていた。
部屋はどうやらレンガと木材で建てられている。
どれぐらい眠っていたのか分からないが横たえられていたベッドも簡素な作りだけど丈夫でシーツも清潔そうだ。
「病院じゃあないよな。なにがどうなった?」
意識が鮮明になるにつれて情報や疑問が濁流のように押し寄せる。
あの半人半蛇のバケモノは倒せたのか?
街や研究所のみんなは無事だろうか?
空に出現した魔法陣のような穴に吸い込まれたような記憶があるけど、俺が乗っていたガレキングはどこへいった?
そして、一番の謎は起き抜けの自分の一言めへと帰ってくる。
「無一文の無職に優しい国だといいけど……どこだろうなここ」
俺は覚悟を決めて部屋にあるガラス窓を静かに開けて外の様子を確かめた。
「オイオイオイ……なんだぁこれ」
レンガの家々が立ち並び、活気あふれる往来には様々な人種と格好の住民たちが行き交っている。
鎧を着たもの、杖を手にしたローブ姿の女性に頭に犬か猫の耳を生やした者もいた。
車道と思わしき広い道を走るのは車やバイクではなく嘶きを上げて進む馬車ときた。
おまけに遥か遠くからでもその大きさが良く分かる立派な城壁が四方を囲んで街を形作っているようだ。
間違いなく日本ではないし、俺が知っているヨーロッパでもないのだろう。
「俺の知ってる地球じゃない。別の世界……異世界ってやつか?」
恐らくだが俺はRPGやファンタジー小説の舞台に限りなく近い世界に流れ着いてしまったようだ。
素人に毛が生えた程度の知識しか持たない俺だけど、これで自分の置かれている状況にそこそこ不安を打ち消せる仮説が立てられそうだ。
「カズ……ありがとう。お前のおかげだ」
カズ。
歳が近いこともあって研究所で仲の良かったアニメや漫画が大好きなオペレーター職員。
休暇や自由時間でも落ち着かなくて訓練や雑用ばっかりやっていた俺を見かねて、観賞会を開いてくれたりとよく一緒に遊んでくれ世話を焼いてくれた友人だ。
カズが布教してくれた作品には現代人が不慮の事故で亡くなり、神様の温情で別の世界で生まれ変わり新しい人生を謳歌するといった内容のものもいくつかあった。
異世界転生モノだったか。たぶんだが俺はそれに近い状況に遇ってしまったと考えるのが妥当だろう。
「とんでもないことになっちゃったな……!」
目の前に広がる中世ヨーロッパ風の異世界の景色を改めて一望して、俺の中には不安もあったがそれに勝るだけの驚きと興奮が湧き上がってきて身を震わせた。
「あ! 起きてる!?」
異国の風を浴びて、これからのことを考えていると部屋のドアが開く音がして、すぐに子供らしき声が背後から聞こえた。
振り向けばそこには声の主である十歳ぐらいの蜂蜜色の髪の礼儀正しそうな男の子と、すらりとした妙齢の女性が立っている。
それにいま少年の言葉、確かに聞き取れた。意味も分かった。
彼が日本語を喋っているとは考えられないが少なくとも言葉の壁と言う下手をすれば致命的な問題に苦労しなくても済みそうだ。
「その、察するにキミたちが俺をここに運んでくれたんだな? 礼を言わせて欲しい。ありがとうございました」
「わっ! あっ、えっと……その」
「ふーむ」
……んん?
深々と一礼して感謝の言葉を伝えてみたがどうにも少年と女性の反応は思わしくない。
しまった。
言葉が通じることに浮かれて文化や価値観の差異を考えていなかった。
やばいかもしれん。
俺はもしかしたらこの世界の人たちにとって、とても無礼な態度をとってしまったのかもしれない。
急いで誤解を解かないとお先真っ暗だ。
「すみません……俺の言葉、通じてる? そのだな、遠方から来たものでこちらの事情に疎いもんだから俺の国で感謝の意を示す言葉と動きをしたんだ。もしも、いまのが無礼な振舞だったのなら重ねて謝るよ。あ、握手! 友好のサインなんだけど、こっちはどうだろう?」
我ながら焦りでかなり多弁になっている。
軽率な行動は控えた方がいいと思いつつも、どうにか状況を良いものにしたくて右手を差し出しながら早歩きで二人の傍に近づこうとすると女性がまるで俺を制するように片手を突き出してきた。
「汝、そのだな」
やってしまった。
タブーを踏んでしまったかもしれん。
少年の方は顔を紅潮して落ち着きがないし、女性も苦々しい表情であからさまに顔を正面からズラして俺と目を合わせないようにしている。間違いない。俺はいまこの短時間で彼女たちから侮蔑の対象になるだけの狼藉を働いてしまったんだ。
ごめんよ、カズ。
俺は馬鹿だ。浮かれて、浅慮で、お前から授けてもらった知識を活かすことも出来ずにせっかくの機会を台無しにしてしまった。
「そのだ……とりあえず服を着ろ」
「へ?」
「汝がそうなっている事情を知っているから私も怒るつもりはないが流石に目のやり場に困る」
「見つけた時はお兄さんずぶ濡れで体を冷やしたままは危ないからって……着ていた服は脱がしちゃってて」
「安心しろ。今までの汝の動きや言葉はちゃんとこの国でも感謝を示す動きで合っている。最も裸ではよっぽどしないがなあ」
苦笑と言うべきか、鼻で笑われたというべきか。
やや視線を下げてそう伝えてくれた女性の言葉で急に冷静になった思考と五感が肌寒さと謎の解放感を教えてくれたようだ。
俺はいま、何も服を着ていない。
「お兄さん、これ。ベッドわきのテーブルに置いておいたんだけど、書置きもしておけば良かったよね。たはは……その、ごめんなさい」
少年が大人用と見受ける服の上下をそっと差し出してくれた。
彼の背丈からして、目でも瞑っていないとブラついているモノがいやでも視界に入るだろうにしっかりと俺と目を合わせながら気遣いの言葉まで送ってくれて、なんて礼儀正しい良い子だ。
そして、敢えて異世界RPG風にいまの俺の状況を言おうじゃないか。
葉車勇吾(♂)
レベル:20(歳)
たかさ:179
おもさ:81
そうび:全裸
そうび:全裸
「ぎゃああああああああああああああああ!!」
久しく上げたことのない大きさの悲鳴を上げて、俺は隠すべき部位を隠しながら土下座に近い形で蹲った。
いくら頭が混乱していたのと異世界に迷い込んだことに興奮していたとはいえずっと服を着ていないことに気付かなかったなんてバカなのか? バカなのだろう。
「まさか気付いていなかったのか? 汝、そっとしておいてやるからもう一睡しておいたらどうだ?」
「カルーニャさん、このお兄ちゃん丸一日寝てたからたぶんそんなにすぐに寝れないよ?」
「あの! 色々とお見苦しいものをお見せして! どうもすみませんでしたぁぁぁっ!!」
憐れみか、呆れか、何もなかったかのようなテンションでやり取りをするお二人に俺は全身全霊で謝るほかなかった。
異世界とか価値観とか文化とか関係なく、女子供の目の前で全裸で練り歩く成人男性というのは普通に変態で失礼だ。
しかし、そんなこんなで――こんな有り様だが俺の異世界での日々は始まりを告げたのだ。
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