これからも、君と――
おおにし しの
待って!
「――さんのことが好きです。僕と、付き合ってください!」
「わ、私なんかでよければ――」
そんな会話が廊下から聞こえる教室でただ一人、俺は窓際の椅子に座りながら、窓の外の夕日を眺めている。窓の外にはさっきの人の告白の成功を祝っているのか、桜の花弁が舞っている。
めでたく恋人同士になったであろう二人が廊下を去っていく足跡が聞こえる。
それが聞こえなくなるのを待ってから、独り呟く。
「ほんと、ああいうのは教室の中に誰もいないのを確認してからやってほしいよな。俺みたいに教室に残ってるのもいるわけだし。……しっかし、告白するって勇気あるよな。俺なんて、10年できないままなんだぜ?」
すると、教室の扉が『ガラリ』と開く音が聞こえる。
その音の方に目を向けると、整った顔立ちの女子が立っていた。噂をすれば、だ。
その女子は俺の幼馴染であり、好きな人の
瑠奈の吸い込まれそうなくらい真っ黒な目が俺を捉えると、黒く長い髪を揺らしながら一直線にこちらに向かって歩いてきた。
「こんなところで何してるんだ。卒業式はとっくに終わってるだろ」
「それはこっちのセリフでしょ。なんでまだ教室にいるの?探したんだからね」
そう言いながら俺の隣の席に腰掛けた。顔は怒っているようだが、声色は全く怒っていない。むしろ『見つかってホッとした』くらいだろう。
「ははっ、そっかそっか、ごめんごめん」
俺が笑いながら謝ると、瑠奈も優しい笑みをこちらに向けた。
「理由か…まあ、なんとなくかな。ここにいたら瑠奈が来てくれるような気がしたから、とか?」
「あはっ、なにそれ」
俺がどこにいても、どこへ行っても、瑠奈は俺を見つけ、そばにいてくれる。俺は、瑠奈のそういうところに惹かれたんだろうな。
「で、何してたの?」
先程の質問をもう一度聞いてきた。
俺は瑠奈に向けた目線をもう一度窓の外に戻して答えた。
「別に何も?ただ、この教室に感謝しながら哀愁に浸ってただけだよ」
「確かにね…ここに来れるのはもう最後だしね」
「そう簡単に帰ってこられるわけでもないし、だからこうやって、この教室との最後の時を過ごしてるんだよ――」
――瑠奈と二人きりで。
そう、言いたかった。
告白するタイミングなんていくらでもあったはずだ。
そこで告白しなかったのは、幼馴染という関係に甘んじていたからだ。
今、このタイミングですべきなのだろうか。
あの人のように、成功するとは限らない。
もしフラれたら、今の関係が崩れるんじゃないか。それが怖いんだ。
「そうだね。これから違う道を歩んでいくわけだし、こうして最後に一緒に過ごせたのはよかったよ」
「なんだよ、別に行くところが違うってだけで最後ってわけじゃないだろ?」
「うん、そうだけど…なんか寂しくて」
これから俺達は、違う道を歩んでいく。だから不安なんだ。
もう、俺を見つけてくれないんじゃないか。もう、そばにいてくれなくなるんじゃないか。
「新しいとこで、また一から関係を構築してくのは難易度高いかな……」
瑠奈はそこまで明るい性格ではない。それこそ、初対面の人に積極的に声をかけにいくほどではない。
「でも、ちょっとワクワクもしてるかな」
「ワクワク?」
「うん。新しい人と出会うわけだし、その中にはこれまで出会ってきた人とは違う人もいるわけじゃん。それが楽しみなんだ」
瑠奈は両手でガッツポーズを取りながら、そう答えた。
「でも、別れちゃうのもやっぱ寂しいな……。ずーっと一緒だったもんね」
「そうだね。幼稚園に入る前からだったっけ?」
「そうそう。お母さん同士が仲良くてね」
「幼馴染とはいえ、よくここまで仲良く関係を保てたよね」
「ね。本当にそう。私の友達にも、幼馴染とは一緒の学校だけど殆ど話さないって人もいるし。特に異性だとそうなりやすいのかな?」
「思春期に入るとどうしても異性として意識しちゃうしね。周りからの影響もあるだろうし」
ここまで保てたからこそ、これを崩したくない。
でも、ここでいかなきゃ、きっと…いや、絶対に後悔する。
「あ、君の友達が探してたよ。行ってあげたら?」
本当にこのままでいいのか?
先に進みたくないのか?
「じゃあ、私は戻るけど、友達との時間も大事にしなよ」
答えは――
これからも、君と―― おおにし しの @Mira-Misu
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