33:マジカルユカちゃん百変化
「お?」
「あ、起きた」
………。
…………え?
ひ、膝枕? 見上げるとふくらみ――――。
「またぁ?」
すまない我が妻よ。男には逝かねばならぬ時があるのだ……………………、あれ。
「勝手に気絶させないよー。アーサーとボクは二人で一人だもん」
「そ、それは良かった。実は俺も気絶に飽きたところだ」
無理矢理に魔力を流され覚醒する気分は最悪だ。いつかユカに逆襲してやりたい。人はこうして目標を得て努力して高みに至るのだ。
「英雄アーサーの好みは長身巨乳だって聞いたよ」
「誰だよ、今度の有識者は」
「ライ君」
「あれが有識者なら三つ首だって有識者になるぞ」
第三師団長のライアン。まさかの情報源にため息をつく。
結婚披露パーティーのたった一度しか会ってないのに、そんなバカな話をしていたとは許すまじライ。
帝国軍は男ばっかりで、夜になればそんな話題を繰り返す集団だ。数々の武勇伝の大半は口から出任せだ。
明日は死ぬかもしれない連中の悶々とした感情を無視はできないから、付き合いで酒を飲んでは役にも立たない情報交換をした。なおライアンの好みは背が低くて胸はほどほどで下の…、やめておこう。覚えている自分に腹が立つ。
辺境警備隊ではできるだけ隊員が思い詰めないよう、たまに面談して緊張を解くようにしているけど、結局行き着く話題は変わらないのも事実。
所帯持ちのマンスケあたりはまだ大人しいし、ガラは振られてばかりだから笑い話で済むけどな。
「そんなアーくんに朗報です」
「……なんでしょう」
そんなと言われても困るが、この流れでにこにこしているユカはもっと困る。仕方ないので姿勢を正してみる。
「ボクってねー、変身、できちゃうんだー」
「え…………」
………変身?
一瞬、その言葉が理解できなかった。変身、変身?
「じゃあ試しちゃうよ、さん、にー、いち」
「ま、待て、いきなりや…」
「マジカルユカちゃん、かれーなるへーんしん!」
「…………え」
謎の掛け声と同時にユカの身体が一瞬光って、そして―――――――。
「おお、我が愛しのユカ。気絶するほど美しいボクのユカ」
「俺はボクなんて言わない」
「あれー」
俺の目の前に俺がいる。
着ている服までまったく一緒。鏡に映ったようにうり二つなのに一瞬で化けの皮が剥がれる。頼むから俺の声でしゃべるな。
「こんな感じだよ。すごいでしょー」
「すごいが二度とやらないで」
一瞬で元の姿に戻るユカ。謎の掛け声はないのか。
ともかく心臓に悪い。
「今さらだが無茶苦茶だな。こんな魔法はこの世界にはないぞ」
「ボクのうっすらとした記憶では、ボクにしかできないみたいだよ」
「誰でもできたらこの世の終わりだ」
量産型アーサー・ユザスは勘弁してくれ。気絶しないから俺より強い俺になってしまう。
ため息をつきながら元のユカを眺める。魔法は理不尽なものと決まっているが、さすがに限度というものがある。すっかり元通りってのもありえない…と、目が合った。
ついさっき俺だったのに、しっかり可愛いのはなぜだ。
「試しに変身してみたら分かったんだけど、ボクにはいつでも変身できる姿が一つあるみたい」
「目の前でしゃべってるユカのことか?」
「これは変身してないもん」
ほっぺを膨らませるユカは可愛いが、拗ねられても困る。何にでも変身できるとなったら、元の姿なんてあるのか分からなくなる。
ただ、変身している時のユカには、それが本当の姿ではないという感覚があるようだ。
「じゃあ、いつでも変身できる姿になってみてもいい? アーくんだけに見せちゃうよ」
「他所でやられては困るのは確かだが…」
そもそも、いつでも別の姿に変身できるってなぜ? ユカはまさかスパイ活動でもしていたのか――――――――――――!?
………。
「ど、どう?」
…………。
「ちょっと恥ずかしいよ」
……………。
「なんか言ってよ、アーくん」
…………うむ。
淡い光に包まれたユカの身体は、脚がニョキッと長くなって、胸がどかんと成長して、そして――――、生脚がまる見えで体型がくっきり出て谷間がすごくて横乳まではみ出て、そのくせユカはユカだった。
「アーくん!?」
耐えられるわけないだろう? なぁ。
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