第30話 親方、頼られる7
「確認しときてぇことがあるんだけどよ。
ダンジョンの中に、扉だのイスだの、家具を手作りで置いてもいいのか?
なんなら……家を建てても問題はねぇのか?」
サクヤの問いに、ダンジョン主はぽかんとした顔を向けた。
言われてみれば、これまでCPを使って魔物や罠を“用意”したことはあっても、
自分の手で何かを“作った”ことは一度もない。
考えたことすらなかったのだ。
「たぶん……やってやれないことはないじゃんよ~。
俺っち不器用なもんで、試したこともないし、
やったところでガラクタが増えるだけな気がするじゃんよ~」
「違ぇねぇ。
ワシが作るならともかく、このへっぽこじゃ材料を無駄にするだけだろうよ」
「けっ。だから間抜けと脳筋は困るんだ」
サクヤは肩をすくめる。
「何も親方が一から十までやる必要はねぇだろ。
そのウスノロをこき使えばいいんだよ」
「親方が手取り足取り教えて、
そいつが体を動かして、
何かが完成したとする」
「そうすりゃ、
労働に対しては“ワークゲイン”みてぇなもんが入り、
完成品に対しては“サティスファクションゲイン”的な何かが発生する──
そう考えるのが自然じゃねぇか?」
「確かに! ……言われてみりゃ確かにそうだ!」
大吉は膝を打った。
「試してみねぇ手はねぇな」
「え、俺っちが……?
そんなご大層なこと……めんど……」
「……あっ、なし! 今のなしじゃんよ~!」
「てめぇ、今“面倒”って言おうとしたな?」
大吉の眼が光る。
「まずはそこから叩き直す必要がありそうだな」
「まったくだ。
やる前からこの調子じゃ、先が思いやられるぜ」
サクヤも腕を組んだ。
「今度こそ生まれ変わるんじゃねぇのか?
やり直したいんじゃなかったのかよ?」
「すみません、すみませんOTZ
俺っち変わらないといけないんだ。
お願いだから見捨てないでほしいじゃんよ~!」
「なら決まりだ」
大吉は不敵に笑う。
「まずはてめぇのシマの中に、
トカゲ小屋でも建てるとするか」
「そのでっけぇ図体が邪魔にならねぇ、
立派なやつをな!」
「おうともよ!」
「……うん。
やってやるじゃんよ~!」
そんなこんなでダンジョン内家づくりが始まる。
ダンジョン主の力が支配する空間の中で、
大吉のスキル【親方】がどう影響を及ぼすのか。
相互に補完する形でスムーズに事が進むのか、
はたまたそれぞれの力が反発し合い難航するのか。
結果は神のみぞ知る。
☆ ☆ ☆
何はともあれ『トカゲハウス』を作る事にした大吉。
迷ったら家を作る。
なんとも大吉らしいシンプルな考え方である。
そうしてもうずいぶんと長い時間誰も立ち入る事のなかった深層のボス部屋に。
と、ここでサクヤが口を開く。
「ところで親方よ~
気づいてるのか気づいてないのかわからねぇが
いい加減、その開きっぱなしの画面を何とかしねぇか?」
「ん? なんか出ていたか?
の、のわ~! ほんとに出ていやがったか!」
『面接が終了しました
採用しますか?
YES / NO
数値:1
消費OP:1000
(特別採用の場合:消費OP5000)』
「今のやりとりが面接だったのか。
ワシ全然知らなかったぞ?」
「まあ、結果的に面倒を見る流れになったんなら、
そう判断されたってこったろ」
「ムムム。何か判然としないところはあるがそれはまぁよしとしよう。
だがなんだ特別採用というのは?
なんでこいつを面倒見るのにOP5000もかかるんだ?」
「そいつは同感だぜ。
だがこれまでの流れからすると、安いからと安易に選ばない方がよさそうだぜ?
安物買いの銭失い、って言うだろ」
「それよ。ワシもなんとなくそんな気がしておった。
この愚図のために5000も払うのは癪だが、答えは決まっておるな」
「だな」
「よし!
銭をどぶに捨てる覚悟で――」
「特別採用といきますか」
『YES』
『特別採用』
選択と同時に、再び画面が切り替わる。
『種族名:うらびれたダンジョンの主
──本人の切なる願いにより──
弟子となりました
以後、マスターのスキルの影響下に入ります』
弟子入りを果たした元ダンジョン主は、さぞ大喜びと思いきや──
意外にも凹んでいた。
「……愚図……
銭をどぶに捨てる……
そう言われても仕方ないじゃんよ~
俺っちなんて……ゴミ以下の存在なもんで……」
どうやら、直前の大吉の言葉が相当こたえたらしい。
その後ろ姿は人生の悲哀を体現しているかのようだった。
「やい、気を落とすなって。
さっきの親方の言い方は……さすがにひどすぎるとはオイラも思うけどよ……
無事弟子入りが果たせたことだしよ、
そのなんだ、これからは前向きにだな……」
あまりの落ち込み様にサクヤも慰めの言葉が見つからないようだ。
「あれくらいのことでめそめそするんじゃねぇ。
職人の世界ってのはな、そりゃもう厳しい世界でよ……」
大吉は勢いで乗り切ろうとしたようだが……歯切れの悪い事この上なし。
そして──
「……さっきのは、ワシが言い過ぎた。すまん」
自らの非を認め詫びを入れた。
悪気がなくとも、
言葉は時に人の心を深くえぐる。
それを忘れてはいけない――
そう、自らに言い聞かせるのだった。
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