第9話 親方家を建てる4
一日の仕事を終え、昼と同じくイノシシの魔物の丸焼きで腹を満たした大吉は、落ち葉を敷き詰めた寝床で眠りに就いた。
すぐに響き渡る大吉のいびきが夜の闇に覆われた森林に響き渡る。
やがてその音を聞きつけた魔物達が集まってくることになる。
グルルルル
ガシッガシシ
何者かの呻き声や何かを齧る音に大吉は思わず目を覚ました。
「なんだ?やけに騒がしい様だが……」
寝ぼけた大吉には何が起きているのかすぐにはわからない。
「何
腰袋からひょいと顔を出したノミ公が、切羽詰まった声で怒鳴る。
「えっ、ワシ食べられとる?」
大吉は間の抜けた声を出すとようやく自分が置かれた状況が飲み込めたようだ。
大きな狼のような魔物が覆い被さり、鋭い爪で大吉の手足を押さえつけ、噛みついているのだ。
しかし、どんなに噛みつこうが歯ごたえがない。
いや──あり過ぎてまったく牙が食い込まないのだ。
牙が弾かれる鈍い音が響くとともに思うように牙が通らない事に苛立つ魔物。
その歯がゆさからか、唸り声を上げていた。
「おのれ……人の安眠を妨げおって。まったくけしからん奴だ。だが……まだワシ眠いから、もうちょっと寝かせてく……れ……」
そのまま大吉は、あろう事か二度寝に突入した。
頑丈すぎるがゆえの鈍感さなのか、あるいは暢気すぎる性格ゆえなのか……
すぐに寝息を立て始めた。
「……おまえなぁ。いい加減にしねぇと、いつか地獄見るぞ?」
呆れを通り越し、ノミ公は怒る気力も失せていた。
一方、魔物の方はこのあきれ果てた行動にイライラが募り、より一層ムキになって大吉を齧る。
蛇の生殺しのように、無抵抗な獲物を前にしながらも食えない魔物は、空腹がここに極まり……ついには涎をダラダラ垂らしはじめた。
「う、うう……冷たい……なんだ、どうしたんだ?」
垂れ落ちた涎の冷たさに、大吉はようやく完全に覚醒した。
☆ ☆
「一度ならず二度までも……。ワシの眠りを妨げる愚か者は何人たりとも容赦せん。ワシの鉄拳パンチで懲らしめてくれるわ!」
ついに大吉の堪忍袋の緒が切れた。
横たわったまま──つまり、頭を齧られたその体勢のまま、拳だけをぐいっと振り上げる。
それを見たノミ公は即座にステータス画面を展開。
『battle matter(戦闘系技能)
ゲンコツ 消費OP5』
流れるような手際で操作すると──
ドスンッ!!
大地を震わせるような鈍い衝撃音とともに、ゲンコツが魔物の頭頂部に炸裂した。
「ギャワンッ!?」
魔物は悲鳴を上げて飛び上がる。
確かに大ダメージではあったが──それ以上に精神的ダメージがとんでもなかった。
“噛んでも微動だにしない獲物”
“噛みつかれたまま眠り続けるふてぶてしさ”
“理不尽なほどの痛みを刻む鉄拳”
得体の知れぬ不気味さと、不条理すぎる苦痛。
その合わせ技が魔物の心を──へし折った。
HPこそまだ残っている。
だが──戦意は、気力ごと根こそぎ消し飛んだのだ。
その瞬間。
『躾が終わりました。
飼いますか? YES or NO
数1 消費OP1000』
まさかの新画面がポンッと浮かぶ。
「ぬおおお!? なんだこりゃ!
飼いますか? だと!?
しかも OP1000 もすんのか!」
「オイオイ……またヘンテコな展開になってきたな。
オイラもそろそろ驚き疲れてきたぜ……」
思わず顔を見合わせてた大吉とノミ公。
想像の斜め上をゆく展開に戸惑いを隠せないでいた。
「飼う──つってもな~。生き物を飼うのは責任を伴うわけで、ワシ犬の散歩なんてできる気がせんぞ?」
「確かにな。最後まできちんと責任を負うって意味でいやぁ、親方ほど向いてない人間もいないわな。なんせ、自分の食事すら疎かにして働き続ける生粋の”仕事馬鹿”だからよ。
散歩忘れとったなんて平気で言いかねねぇ」
まるで拾った犬や猫をどうするか相談するかのような二人。
直面する状況を全く理解していないようだ。
今帰順を誓ったこの魔物こそ脅威度Bの純然たる格上の存在。
本来この大森林のさらに奥に生息する「フォレストジャイヤントウルフ」だったのだ。
だがそもそもなぜそのような魔物がこのような場違いなところに現れたのか?
その答えはやがて明らかになる。
『帰順を希望する魔物が話を聞いて欲しいようです。
聞きますか? YES or NO』
ここでさらなる画面が浮かび上がった。
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