第8話 親方家を建てる3
昼飯にしようと言い出した大吉に対し、
「オイラに飯はいらねぇぜ」と返すノミ公。
理由を尋ねると──。
なんでも付喪神であるこの鑿は、大吉の生体エネルギーを取り込んで活動しているらしい。
本人曰く、
『親方の生体エネルギーをちょいと拝借してる』
とのことだ。
「……は? なんだ? 寄生虫みてぇなもんか?」
「ばか野郎! 失礼な言い方すんじゃねぇよ!
オイラ達は“相棒で一心同体”ってことよ!
どうせ小難しい理屈言っても理解しねぇだろうから、
てめぇがしっかり飯食ってりゃ、オイラも元気でいられる──
その程度に覚えときゃ十分だ!」
「フム……なんかはぐらかされてる気もするがまぁいい。
よっしゃ、早速イノ公を丸焼きにして食うとしよう」
口を開けば憎まれ口を叩くものの、根は素直で単純な男だ。
大吉はノミ公の説明をあっさり受け入れ、食事の準備を始めた。
☆ ☆ ☆
「か〜、単に焼いただけだが美味いじゃねぇのよ。
塩気が無いのが少し物足りないが、今のワシにはこれで十分だ。
滴り落ちるこの肉汁がたまらん!」
手づかみの原始スタイルで肉にかじりつく大吉。
この食べ方がこれほど似合う男も珍しい。
「ったく、うまそうに食べやがる。
そのまま食いながらでいい、ちょいと報告しとこうと思ってな」
ノミ公は改まった
「OPのことなんだけどよ。
さっきから木を伐りまくってたろ?
思った通りワークゲインは発生してたぜ。
……まぁ、雀の涙ほどだったけどな。
聞いて驚け──
40本伐採して4OP!
涙がちょちょ切れるほどの少なさだ!」
「か〜、しけてやがるな。
だが考えてみりゃ道理だ。
畑違いの仕事をどんだけやっても、本職の足元には及ばねぇ。
大工は家を建て、木の伐採は木こりに任せるってことだな」
「けっ、そういうこった。
──だがよ、魔石は違う。
今日ここまで討伐した魔物が8体、今食ってるイノ公合わせて9個の魔石がある。
これをOPに変換すると……なんと2100OPになる」
「そんなになるのか!
イノ公──一口で二度うめぇってのはこのことよ。
当分、魔物狩りは疎かにできねぇな。
もちろん本分の“家づくり”もやるが、
今みたいに作業しながら襲ってくるやつを返り討ちにすりゃ、
食いっぱぐれる事はなさそうだ」
「察しがいいな。
要するに魔石の確保が重要ってこった。
今のままでかまわねぇが、意識をちょいと魔物の方に向けりゃそれで十分だ」
ノミ公の話によれば、
・脅威度Cの魔石は 500OP
・脅威度Dの魔石は 100OP
とのこと。
つまり、より強力な魔物ほど高価な魔石を落とすという単純明快な話だ。
「ちなみに魔物討伐で経験値が入ったおかげで、
親方は今 Lv.4 になってるぜ。
転生して半日で3つ上がりゃ御の字だろ。
このペースなら今日中にあと1〜2くらい上がるんじゃねぇか?」
「おおマジか! レベルってだけでワクワクするな。
捨てナスだかなんだかってのが、レベル上がるたびに伸びるんだったな?
で? ワシはどれくらい強くなったんだ?」
「それを言うならステータスだろ!
なんでこう横文字が苦手なんだよ親方は。
それといい加減、自分でステータス画面くらい開け!
戦闘中は手助けしてやってるけど、今は関係ねぇだろうが」
「いや、ワシ食べるので手いっぱいだぞ? 手もベタベタしとるし……」
「おいおい、“食べるので忙しい”って……。
もっとマシな言い訳はねぇのかよ。
それに手がベタベタしてようが、画面に触るわけでもねぇんだ。
要は面倒くさいだけだろ?
──ったく、仕方のねぇ相棒だ」
そう言いながらも、ノミ公はステータス画面を開いて見せる。
名前
◆ パラメータ
項目 値
HP 600
MP 600
Power(腕力) 90
Intelligence(知力) 90
Vitality(体力) 90
Agility(敏捷) 90
Dexterity(器用) 90
Luck(運) 10,090
Offense(攻撃力) 90
Defense(防御力) 100,090
「ほらよ! どれも結構な伸び具合だ。親方の場合は Luck(運)がえげつねぇから、毎回最大値で上昇するんだとよ。女神様の加護も乗っかって、実質十万っていうデタラメな強運だろ? そりゃ常人の何倍も伸びるわけだ」
言われて、大吉もおぼろげに思い出す。
──レベルアップ時のステータス上昇は、毎回 1~20 の範囲で決まる。
そしてその幅を最も左右するのが Luck(運) である。
一般人なら一桁上昇が普通。不得意分野に至っては 1~2 上がれば御の字、むしろ上がらなくても仕方ない――それが一般認識らしい。
大吉のように常に最大値で上昇するなんて事はでたらめもいいところなのだ。
「ワシ、まだ Lv.4 なの? 駆け出しもいいところじゃねーか。これでは恥ずかしくて人前にゃ姿を晒せんぞ?」
「……親方、それ人前で言ったらマジでどつかれるぞ? たった半日でレベルが3つも上がって、そのうえこの上昇率だ。普通の奴なら数年かけても届かねぇ。
それを“恥ずかしい”はねぇだろ……」
「そりゃそうか。ならちゃっちゃとレベル上げて、“いっぱしの姿”をお披露目してやるとするか」
☆ ☆
昼飯を平らげ、大吉が少し昼寝をしたあと、再び作業を開始した。
木を伐り、音に釣られて寄ってくる魔物を狩り、また木を伐る。
それを延々と繰り返しているうちに、日が傾き始めていた。
「だいぶ開けてきたな。明日もう一日頑張れば、敷地のスペースは確保できるだろう。今日のところはここまでだ」
「お疲れ~親方! 伐りまくったし、狩りまくったなぁ。朝とはまるで別の場所だぜ。で、今夜はどこで寝るんだ?」
「どこで寝るとな? そんなもの決まっとる。野宿だ。現場じゃ地面に転がって昼寝しとったし、酔いつぶれて道路で眠るなんてこともザラだった。
その点この辺りにはたっぷり落ち葉がある。それを敷き詰めれば極上の寝床が出来上がりってな。」
豪快に笑う大吉。
頑丈な彼ならではの感性という他はない。
──だが、この安易な考えがこの後の不幸につながることになるとは、この時の大吉は知る由もない。
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