第4話 旅立ち
そして、出発の日が来た。
シエロ帝国の飛空船が、再びルミナス家の敷地に降り立つ。
アークは慣れない豪華な衣装に身を包んでいた——まるで大きな籠に入れられた鳥のように。
父ライナスは大勢の貴族や関係者を招き、盛大な見送りを行った。もちろん、莫大な結納金を誇示するためだ。
「私の長男アークは、この国の未来のために、遠きシエロ帝国へ嫁ぎます」
ライナスは高らかに宣言した。だが、その目はアークではなく、すでに運び込まれた結納品の山に向けられていた。
アークは家族に別れの言葉をかけなかった。誰も彼に別れを告げることを望んでいなかったからだ。
飛空船のタラップを上がる直前、アークはふと庭の隅を見た。そこには、彼が最後に力を注いだ木があった。
周りの華やかな花々より目立たないその木は、しかし生命力に溢れた美しい緑を湛えていた。根元には一輪の野花が静かに咲き、まるでアークの唯一の友人のように見送っているかのようだった。
アークはその光景を胸に刻み、タラップを上がった。
飛空船の分厚い扉が音を立てて閉まる。
故郷との縁が完全に断ち切られた。窓から見下ろすルミナス家の屋敷は小さくなり、そこに彼の居場所はもうなかった。
「無限大の力」を持つ家族の中で、「微小な力」しか持たなかったアーク。孤独な船の中で、彼は呟いた。
「僕の力は一輪の花しか救えない。でも、その一輪が、いつか誰かの唯一の救いになるかもしれない」
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