第4話:決意の第一歩

 見学を終え、受付カウンターで梓から入会の説明を受けていた。梓はパンフレットを使い、料金体系やプログラムについて丁寧に説明してくれる。


「…という流れになります。何かご質問はありますか?」


 優斗はまだ迷っていた。自分なんかが続けられるはずがない。場違いだ。そう思った瞬間、脳裏に美咲と高橋の嘲笑う顔がフラッシュバックした。『頼りない』『ひょろっとしてる』という言葉が蘇る。


 悔しさがこみ上げてきた。このままじゃダメだ。何も変わらない。


「…変わりたいんです」


 自分でも驚くほど、はっきりとした声が出た。隣にいた健太も、驚いて優斗の顔を見る。


 優斗の真剣な眼差しを見た梓は、営業スマイルではない、心からの笑顔を見せた。


「はい。全力でサポートします。一緒に頑張りましょう!」


 その力強い言葉に、優斗の背中が押される。健太が「こいつ、やる気満々みたいなんで、すぐ入会させちゃってください!」と茶化しながら、優斗の肩をバンバン叩く。


 優斗は震える手で入会申込書に名前を記入した。それが、新しい自分への契約書のように思えた。



 手続きを済ませ、レンタルウェアに着替えた優斗は、早速梓からマシンの使い方を教わることになった。まずは基本的なチェストプレスから。


「じゃあ、まず一番軽い重りで10回やってみましょうか」


 しかし、なまりきった優斗の身体は全く言うことを聞かない。バーを押し上げる腕はプルプルと震え、3回で限界が来た。周囲を見渡せば、自分よりも小柄な女性や、年配の男性が軽々とウェイトを上げている。隣のベンチプレスエリアでは、屈強な男たちが雄叫びを上げながら、とんでもない重量のバーベルと格闘していた。


(…恥ずかしい。俺、情けなすぎる…)


 早速、強烈な劣等感に苛まれる。もう帰りたい、とすら思った。


 そんな優斗の心情を察したのか、梓が優しく声をかける。


「大丈夫です! 最初はみんなそうですよ。重さよりも、正しいフォームでやることが一番大事なんです。自分のペースでいきましょう」


 梓は優斗の隣に座り、筋肉のどこを意識すればいいのか、呼吸のタイミングはどうするのか、一つ一つ丁寧に、そして的確に指導してくれた。彼女の言う通りにやってみると、不思議と力が入りやすくなる。


 全身の筋肉が悲鳴を上げ、汗が滝のように流れる。苦しい。辛い。だが、やり終えた後には、今まで感じたことのない不思議な爽快感があった。


「お疲れ様でした! 初日にしては上出来です!」


 梓にタオルを渡され、最高の笑顔で褒められる。その笑顔が、疲労困憊の優斗にとって何よりのご褒美だった。


「…明日も、来ます」


 優斗は、自分でも驚くほど強い意志を込めて、そう宣言した。この日を、自分を変えるための、記念すべき第一歩にすると心に誓って。

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