第19話 7-3
六角義賢だが徳川家康が守る石部の宿場町にある浄蓮寺に突如奇襲を仕掛けたのである。ただ弥生たちは義賢の行動に同意できなかったので町衆に紛れて義賢には関わらず素知らぬ顔でやり過ごそうと思ったが予想外に六角勢に支援要請をされてしまったのである。
それでも弥生はしらを切ったのである。返事せずに無視したのである。
戦況だが多勢に無勢で徳川方はまずこの六角勢を追い払ったが徳川方は六角勢を追い払うと弥生たちを囲んだのである。
「奥方!少し(徳川の)本陣に来て頂きたいのですが?」
徳川の足軽大将が弥生に厳しい口調で言ったが
「何かの人違いかと」
弥生はそれでもとぼけたが
「弁明は本陣で殿(徳川家康)の前でお願いしまする!」
この足軽大将も譲らなかったのである。
弥生たちだがお菊と小次郎の近くに偶然いたのである。
お菊と小次郎だが徳川方の足軽大将と揉めている弥生たちに気付いたのである。
「弥生さん!」
お菊だが思わず小声を出してしまったのである。
「バカ!静かに!」
小次郎が小声で慌ててお菊に注意するとお菊も慌てて口を両手で抑えたのである。ただお菊は渡辺が自分を一瞬睨んだようにも感じた。
「弁解の機会は与えますので本陣でお願いします!あと薙刀はお預かりさせて頂きたく!」
「これは大事な物ですのでお断りします」
徳川の足軽大将と弥生の押し問答が続いていたがその時、六角勢の新手が再度突っ込んで来たのである。さっきよりも数が多く徳川方も弥生に構っていられなくなったのである。
「ええい!しつこい連中だ!本陣から早く援軍を呼べ!鉄砲は使うな!町衆に当たる!」
この足軽大将は部下に素早く指示を出して六角勢に対抗しようとしたのである。
ところが徳川兵たちは鉄砲が使えないのもあって押され始めたのである。逃げ隠れしていた町衆も目の前の太刀打ちに恐怖し悲鳴を上げていた。
「おのれ!山賊が!婆さんや!ワシらの大事な茶店を守るぞい!」
「爺さま!でも無理は禁物ですよ!」
お菊たちの居た茶店の主人の老夫婦も錆だらけの斬れそうもない薙刀を持ち出して徳川兵を支援し茶店を守ろうとしたのである。
「やれやれ。見ておれん。助太刀するか」
渡辺も味方の不利を悟ったのか兜を被り鎌槍を持った。
「若様はここで休んでいてくだされ」
若侍を待機させると渡辺は猛然と六角勢に突っ込んだのである。ただこの日の渡辺は六角兵に致命傷を与えるような事をなぜかしなかったのである。意図的に手加減し相手に少し傷を付ける程度であった。それでも六角兵だが一人で勝手に大暴れする渡辺の技量に慄いて再度逃げるように後退して行ったのである。
「すげえ!しかも寸止めかよ?」
「強過ぎるよ!」
小次郎とお菊は渡辺の槍裁きに驚いていた。
徳川方は再度六角勢を撃退すると
「奥方。別にあなたを六角の兵と疑がっている訳ではないが連中があなたに声を掛けた以上は人違いだろうが念のために調べさせてもらう。後は本陣で殿に弁解して欲しいですな」
渡辺は弥生に言った。
「もし私が六角兵でしたら?」
弥生が言うと
「あなたは六角兵ではなくて石山本願寺の兵でしょう?女子(おなご)なのに戦を見てそこまで冷静なのは素人ではない」
渡辺は正体をお見通しと言わんばかりに言うと
「この方をひっ捕らえろ!」
渡辺は命を出したのである。
徳川の足軽数名が槍を構えて弥生に向かったのである。しかし弥生は鞘に入ったままの薙刀で足軽たちの槍を素早く薙ぎ払うと逆に足軽たちの腕や首筋、胴丸や足を叩いて追い払ったのである。
軽いどよめきが徳川兵の間で起こったが渡辺は明らかに不愉快そうな顔をしていた。そして
「大人しくワシに従って頂ければ門徒衆同士の好み(よしみ)も考えましたがな?その態度、気に入らんな!力づくで組み伏せさせてもらう!」
そう言うと渡辺は鎌槍を構えて弥生との間を詰めたのである。
弥生も
「女は乱暴な男は嫌いで」
渡辺に返すと市女笠と羽織っていた被着(かづき)を脱ぎ捨てたのである。被着の下には赤い胴丸を着込み薙刀の鞘を外すと構えたのである。
徳川兵は再度どよめきの声を上げたが渡辺は別の足軽大将に
「手出しは無用!凄腕だ!ワシが対応する!むしろ六角の新手に気を付けろ!」
命を出して自分も構えたのである。
そして
「良い覚悟だ!こちらから参るぞ!」
そう言うと弥生に突っ込んだのである。
弥生だが薙刀を巧みに操り渡辺の鎌槍をかわしたのである。
弥生だが女子にしては背丈が大きく渡辺とほぼ同じ背丈であった。だから渡辺も警戒していたが何度か太刀打ちして分かったが腕力も引けを取らなかったのである。それでも自分の腕力に自信があった渡辺は本気で鎌槍の刃を弥生の薙刀に押し立てたのである。
弥生も押されながらもなんとか踏み留まった。互いの顔の近くで渡辺の鎌槍の刃と弥生の薙刀の刃が強く擦れ合い火花も時々散らしながら嫌な軋み音を出していた。
「良い腕だ!名乗りを聞こうか!」
「村上弥生。安芸因島(広島)で」
「(水軍衆の村上の出なのに)陸戦もやるではないか!三河武士渡辺守綱!極楽浄土への手土産で覚えておけ!」
二人は一度間合いを取り直すと再度太刀打ちするとまたも渡辺の鎌槍の刃と弥生の薙刀の刃が強く擦れ合いギシギシと嫌な音を立てたのである。
「しかし女子供に頼るようじゃ本願寺も終わりだな!」
「では女子供があなた様を終わりにいたしましょうか?」
「生意気!」
渡辺はこのまま力押ししたが弥生はそれも押し返し踏み留まったのである。
「弥生さんすげぇ!」
「渡辺殿と互角だ!」
小次郎とお菊は立場を忘れて戦いを見ていた。徳川の兵たちも手出し無用と言われた手前もあるが三河衆最強の槍の使い手の渡辺相手に粘るしかも女子の弥生に驚いていたのである。
ただ弥生だが自由に左右に動き回る渡辺に対して動きが遅く押され気味になっていた。
「小次郎!やばいよ!弥生さん押されてる!」
「そうは言っても手を出せねぇよ!」
弥生の動きの悪さは小次郎とお菊も察したのである。
「弥生殿。ワシ相手によくやっているがいつもより動きが悪いと見た!」
「そんな事ないわ」
弥生は否定したが実はその通りで着物だと裾の関係で足の開きなどで制約があり普段の甲冑より動きが鈍っていたのである。
それでも弥生はさっきと同じように渡辺の鎌槍を避けながら民家を背に体制を再度整えようとしたのである。しかし実は渡辺がそのように誘導したのであるが。
「水色の着物は悪くないがな!そこ!」
渡辺の鎌槍は弥生の利き手の右腕の薙刀を持つ着物の袖を狙うとそのまま突き刺したのである。鎌槍は袖を貫通し家の壁に刺さった。
「しまった!」
着物の袖が渡辺の鎌槍に絡み弥生は薙刀を持ったまま動けなくなったのである。
「これで終わりにするか?」
渡辺は鎌槍を手放すと太刀を抜いたのである。
「ヤバい!」
小次郎が叫ぶと
「弥生さんが危ない!借りるよ!」
お菊は茶店の老婆の薙刀を奪い取ると猛然と渡辺に突っ込んだのである。
「あ!俺も借りるぜ!」
小次郎も遅れて爺の薙刀を奪うとお菊を追ったのである。
「ん?何!」
渡辺は猛然と突っ込んで来たお菊に気付きすぐに太刀を使って避けたのである。
「お菊!小次郎!下がりなさい!」
弥生がお菊と小次郎を止めようとしたが
「あたしがこの人の相手をする!」
お菊は叫ぶと錆びだらけの薙刀を振り回し渡辺に向かったのである。ただ渡辺は難なくかわしたが。
「まぁ小僧もお嬢ちゃんもやはり本願寺の手下だったか。別に驚かんが」
渡辺は予想通りと言ったが。
「まとめてかかって来なさい。お相手しよう」
渡辺が言うと
「渡辺殿!遠慮なく!」
「行くよ!」
小次郎とお菊は渡辺に向かったのである。渡辺はいったん太刀を収めると弥生を動けなくしていた鎌槍を抜いて構えたのである。
渡辺は予想外の動きをしたのである。小次郎とお菊と少し太刀打ちした後だが渡辺は道の真ん中に走って移動したのである。小次郎とお菊も素早く追い掛けたが渡辺は突如太陽を背にしたのである。渡辺の鎌槍の刃が太陽に反射しお菊と小次郎の視界を一瞬遮ったのである。
「眩しい!」
「見えない!」
お菊と小次郎が怯んだ一瞬であった。
「修行が足りんわ!」
渡辺は現代風に言うと鎌槍の柄を野球のバットの素振りのように持ち直すと思い切り振ったのである。
「あぶねえ!ぶ!」
「きゃあ!」
小次郎の腹部に鎌槍の柄が直撃し小次郎が吹っ飛びお菊も薙刀の柄で直撃は免れたがそれに巻き込まれて小次郎とお菊は茶店の前まで吹っ飛ばされたのである。
「むぎゅう」
小次郎は完全に伸びており
「痛~い」
お菊は小次郎を下敷きにしたおかげでお尻をさする程度で大した事はなかったのであるが。
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