第5話 無かったことにされた存在
「おお〜、天宮によく似合ってるじゃん。強そう強そう」
「天宮くん、その服装すっごく勇者っぽくて良いよ〜」
天宮の格好を見てこやきと二人、それぞれ感想を告げる。
青色を基調とした動きやすそうな服に胸当てを装備。耐久性の良さげなマントを羽織り、背中に剣を背負っている。
頭には赤い石がはめ込まれたサークレットを付けていて、それはまさに自分の中にあった勇者のイメージそのものだった。
我々がこの世界に喚び出されてから数日が過ぎ、本日天宮が勇者として旅立つ日となっていた。我々二人は天宮が城を出てしまう前に会っておこうと声を掛けたのだ。
「様になっているようなら安心したよ。こんな格好は初めてだからね」
照れながら笑みを浮かべて話す天宮。だけどその笑顔の下は緊張とか不安とかでいっぱいになっている。笑って隠そうとしているけど、チートステータスのせいか、こっちはそれらを思いっきり感じ取れているんだよね。
これから一人で世界を巡ってラスボスを倒しに行くんだから当たり前の感情か。
実はこやきと自分は、勇者を召喚する際に巻き込まれてこの世界に来てしまったのだろうという結論にされていた。
というのもステータスを調べられた結果、何をどうしても見ることができなかったかららしい。こやきの言った通り鍵付きだから見れないのは当然。そのことを教える気は全く無かったので黙っていた。
おかげで何人もの人たちに解析スキルで調査をされ長時間拘束された。最後の方は「バグってるからじゃね?」と何度も言い煽り、無表情の顔をし続けてたら諦めて解放してくれた。
向こうはバグるという言葉の意味は分からなかったみたいだけど。
全員が全員ステータスを持っているわけじゃないそうだ。ステータスが見れないことはその人にはステータスが無いということ。
例えば、魔物と戦う術を持っていない一般人などがそれにあてはまるとの話を聞いた。
そして見事一般人認定された我々二人は、お偉いさんみたいな人からひとまず勇者が旅立つ日までは城で過ごす様にと言われる。身の安全と生活の保障は王女から約束されているとのことだ。
だけど勇者が旅立った後はどこで過ごすのか、どんな保障を受けるのかなどは、聞いても詳しく言われず濁されたんだよね。
悪しき力を持つ者の正体はまだ分かっていないらしい。こやきと自分はそれのことを勝手に魔王と呼んでいたけど。
正体を暴くのも世界を救うのも別世界から喚びつけた勇者一人に丸投げだなんて、なんていうか、すっごい無責任すぎる。
肝心の元の世界に帰る方法は王女に聞いたが、申し訳なさそうに分からないとの返事。彼女は手一杯で余裕がなさそうだった。
逆に我々を喚び出した方法を聞いてみると、一冊の魔導書を使ったとのこと。魔王がこの世界を支配しだした頃、異世界にいる勇者を喚ぶ為の魔導書がどこからだか知らないけど見つかったらしい。
こやきとの考察談義で、帰るための手掛かりは魔王にあるかもしれないという考えに辿り着く。勇者が光で魔王が闇として、光がこの世界への入り口だとしたら闇は出口になるんじゃないかと。
闇があるなら光もまたある、その逆もあり、みたいな?
だったら尚更我々も魔王の所に行ってみるしかないよね。
「天宮、大丈夫だ。お前は一人じゃないから。何も心配しなくていいからね。真っ直ぐ道を進んでていいよ」
「そーだよ。だって後からうちらがついてーんぶっふっ!」
「おーっと、ごめーんこやき、手がすべったー」
こやきの口を塞いで発言を阻止する。今知られるわけにはいかない話だからだ。
「春日野さん、上若林さん、心配しないで待ってて。必ず戻って来るから」
勇者補正なのか分からないけど、そう言った天宮がなんだかキラキラして見えたよ。
やっぱりちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、勇者になれなくて悔しいと思ってしまった。
「天宮くん、遂に出発しちゃったね」
「そーだねー。じゃあ、こっちもさっさと片して行きますか」
城門前には大勢の人たち、その中には王女もいる。世界を救う勇者様を見送る為、たくさんの人々が集まっているのをこやきと共に遠目で見ていた。
そんなオレらの後ろには、鎧を着ている人たちが3人程立っている。
「勇者様の見送りはもういいか? じゃあお前たち、行くぞ」
「「はーい」」
一般人認定されている我々はどこかへ連れて行かれるらしい。割と快適に過ごすことが出来ていた城住まいの期限は勇者が旅立つ日までだったしね。
お偉いさんたちの思惑はスキルを使って既に知り得ている。勇者以外の存在を無かったことにするとのことだ。
勇者が魔王を倒し、世界が平和になった後、巻き込まれて喚び出したことになっている一般人の我々がいるのは色々都合が悪くなるとの話だ。国として、歴史的にあくまで勇者だけを喚び出したことにしたいらしい。
知ったこっちゃないけど。
もしチートステータスのことを知られていたら、それはそれでまた違ったことになっていただろうけど。面倒ごとは避けたかったから今の流れのままで良し。
「お前たちとはここまでだ」
鎧の人たちの一人から告げられる。
連れて来られたのは鬱蒼とした森の中。チートステータスのスキルが勝手に発動しており、周りから魔物の気配を感じ取っている。
置き去りにして魔物の餌に……、ってことね。はいはい、王道王道。
「悪いな、嬢ちゃんたち。俺たちも上には逆らえなくてよ……。本当にすまない」
「まだお若い方々なのに、大臣はなんて酷いことを……」
「おいっ、滅多なことを言うな! 俺だって嫌だよこんなこと……」
あちゃー、いい人たちパターンか。
命令されたとはいえ、うら若き女子二人を魔物のいる森に捨ててくるなんて、めっちゃ後味悪いだろうな。
でも申し訳ないけど、こっちにも言えない事情があるからね。
「しょうがないですよ。人には人それぞれの理由があるでしょうし。短い間でしたがお世話になりました。オレたちのことは綺麗さっぱり忘れてください。皆さんお元気でー」
「帰り道魔物に気を付けて帰ってね〜」
悪い人たちじゃなくて良かった。涙ぐんでいる人もいたね。でも置き去りにするなら最期は眠らせて楽にー、ってのがデフォだと思うんだけどな。
逆に、「お前たちはこれまでだ」なんて斬りかかられてたらヤバかったかも。だって余裕で返り討ちにできるから。
その場合、国から殺人犯として指名手配されていたかもしれない。
足早に去っていく鎧の人たちを見送りながらそんなことを考えてしまった。
さて、一般の人はこんな所に置き去りにされたら絶望しかないんだろうけど、我々にとっては望んでいたことだ。
これで『勇者を守りし者』として『勇者』の旅に付いていくことができる。そして大手を振って魔王の元へ行ける。
勇者が旅から帰ってくるまで城で待ってることにならなくて良かった。だけど多分王女はそのつもりだったと思う。自分らのことを何かと気にかけてくれていたもんね。我々がいなくなったことはお偉いさんが都合のいいように王女へ話をするだろう。
王女様、自分を責めたりしないといいな。お父さんが病気で寝込んでいて大変なのに、他所から来た我々のことで気に病まないで貰いたい。
「おうり〜、ここの魔物倒しちゃう〜?」
「いや、それはやめとこう。万が一魔物が倒されていたことを知られると後々面倒くさくなりそうだし。さっさとこの場所を離れよう。こやき、天宮の所までの移動魔法はどっちが使う?」
「あ、じゃあうちが使うね。うちは魔力無限大だから」
「じゃーお願い」
こやきに掴まると早速移動魔法が発動される。まだ慣れない浮遊感を感じながら、二度と訪れることのないこの地から我々は去っていった。
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