第4話 選ばれなかった強がり
天宮は『勇者』としてこの世界を救うことにしたらしい。
すごいよね、何一つ思い入れが全く無い知らない世界を救おうだなんて。しかも無報酬で。
壮大なボランティアじゃん。
まあ、全力で頑張る人は応援しますけどね。
「先ほどは取り乱し失礼致しました。私はこの国の王女リーシャです。こちらの世界へ突然お喚びしてしまい大変申し訳ありません。勇者様の決意、病に伏している父に代わり深く感謝申し上げます」
さすがお姫様、所作が綺麗で丁寧だ。王女ってことは、父という人はこの国の国王様ってことか。病気のお父さんに代わって国のことを色々やらないといけないんだろう。
見た目年齢的に同じくらいだと思うけど、自分らの大変とはわけが違うんだろうな。
でも、それはそれとして色々聞いておかないと。
何をするにしても情報を制する者が戦いを制するからね。ひいては世界をも制するっていうし。
「ねーねー、おうり〜、『ステータス』って念じるとゲームみたいに自分の状態が見れるよ〜」
隣にいるこやきがこそっと小声で言ってきた。こやきも自分ほどじゃないけど前からRPGゲームとかしてたっけ。
にしてもこの状況への適応力早すぎでしょ。素晴らしすぎる。見習おう。
ステータスって言葉にしなくてもいいのね。
念じる……、念じるだけ……。
「うわあぉっ!」
こやきに聞いたようにしてみると、自分の目の前にパッと画面が浮かび上がる。今まで見たことがない異質なものにびっくりして、素っ頓狂な驚きの声を上げてしまった。
思わず両手で口を押さえる。そんな自分を見てこやきが爆笑していやがる。
「何でもないです! 気にせずお話して下さい!」
周囲からの視線を外すため冷静さを装う。天宮から「大丈夫か?」と声をかけられ、王女からも「別室でお休みになりますか?」なんて気を遣われてしまい、恥ずかしさでその場から離脱することにした。
「あーっはっはっはっはっ! さっきのおうり、おっかしー! ヤバっ、うち、ツボったかも!」
我々二人は広間から別室へと案内された。
こやきは座っているソファーをバンバン叩きながら未だにずっと笑っている。笑うことは良いことなので、とりあえず放っておいて自分のステータスを改めて見てみる。
瞬間、頭の中に流れ込んでくる膨大な情報。主にこの世界での戦う術についてのようだ。
いろんな武器の扱い方、魔力の使い方、魔法の発動方法、スキルの内容、特殊能力、戦闘時の身体の動かし方、戦略のことなど色々。
それらの情報がまるでパズルのピースがぴったりはまっていくように、自分の中で繋がっていく。一瞬で全て理解ができていた。
魔物との戦闘なんて一度も経験したことがないのに戦い方を知っている。剣や斧、槍や弓などの武器もゲームでしか見たことがなく、触れたことなんて一度もないけど扱えるようになっている。
魔法や魔力操作、スキルに関してもそう、それら全部が今の自分は難なく出来るのが分かった。
そのことに対して拒否反応等はなく、それが当たり前かのように受け入れている。
ゲームだと通常敵と戦って経験値を得てレベルを上げていくことで技や魔法なんかを習得していくけど、その過程を見事にすっ飛ばしているよ。
「あはは……、これが巷で噂のチートステータスってやつかー。すっごいね……」
レベルやその他の数値も多分これ最高値だと思う。ゲームをどれだけやり込んだとしても、ステータスがこんなにカンストしている数値ばかりには普通ならないんだけどな。
「こやきのステータスはどうなってんの?」
やっと大笑いを終えて、目に溜まった涙を拭っているこやきに聞いてみる。
「おうりのステータスと少し違うとこもあるけど、レベルが最高値になっているのは同じだね。おうりは体力値に無限大マークついてるけど、うちは魔力値に無限大マークがついてるよ。それから全部の魔法が使えるようになったっぽいね。発動の仕方が頭の中にぐわーって入ってきたから無詠唱で出来るみたい。ほらほら見てみて」
そういうと、こやきは人差し指を立てて、ライターみたいにポッと火を出してみせた。理解出来ているはずなのに、その光景に違和感を感じてしょうがない。
だって指先から火が灯っているんだよ。そのうち慣れていくだろうことを祈る。
「今のはただの生活魔法なんだけど、魔物との戦闘時に使う攻撃魔法の威力はかなりすごいみたい。ちょっと楽しみかも」
「そうなんだ。スキルでこやきのステータス見せてもらってるけど、能力的にオレは前衛で、こやきが後衛って感じかな」
「そうなるっぽいね〜。ん〜、この肩書きのところ、『勇者を守りし者』って何だろう?」
「オレのにも書いてある。読んで字の如くなら、そのままの意味じゃない?」
「うちらが勇者になった天宮くんを守るってこと?」
「だろうね。だからもしかしてステータスがこんなアホみたいなことになってるのか。うーわっ、めんどくさっ! こやき、このこと隠しとこうよ」
「そうだよね〜。でもうちらのステータス多分調べられるんじゃないかな。あっ、でも鍵マーク付いてるから大丈夫っぽい。うちら以外は見れないよ」
いつだって強大な力を持つ者は疎まれる、それか面倒ごとを押し付けられる。だったら最初っからそれを知られないほうがいい。弱き者を演じていた方が賢明じゃないのかな。正解は分からないけど。
「それにしても世界を支配する悪しき力を持つ者って、あれだよね、魔王とかの類だよねきっと」
「王道だよね〜。もう呼び名魔王でいいんじゃないかな。それより、おうりは自分が勇者じゃなくてよかったの? 去年進路希望調査書に勇者って書いて担任から呼び出しくらってたじゃん」
「あれは、なんというか、めっちゃ黒歴史……」
そういえばそんなこともあったな。
丁度その頃のめり込んでいたゲームの内容が、プレイヤーが勇者となり旅をするという王道ファンタジーもの。ストーリーが凄く感動的で、細部まで作り込まれてて、涙誘うイベントもあったりで感情移入しちゃったんだよね。それの影響を受けてやらかしてしまったのだ。
担任から呆れられ、書き直しと言われてどうしようか悩んでた時に、毎週こやきと番組の感想を語り合っていた人気お笑い芸人のテレビ番組で全国スクール漫才グランプリのことを知り、我々も出てみようとなり応募したんだよね。
おかげで進路希望調査書に『芸人』と、現実味のあることを書くことができて、二度目の書き直しがなくホッとした記憶がある。
「勇者なんて自分には向いてないからいいの。生徒会長やってたっていう天宮がなるのがいーんじゃない? 責任感ありそうだしさ」
こやきにはそう言ったけど、内心ほんのちょっとだけ悔しさがあったりする。
正直わくわくしていたんだ。
この世界で自分が勇者となって魔王を倒す旅に出ることになるんじゃないかって。
だけど勇者に選ばれたのは自分じゃなかった。一瞬で潰えた夢。
しょうがないしょうがない。
ただ単に自分は勇者の器じゃなかっただけなんだから。
それに、この世界にいることは夢ではなく紛れもない現実だ。ゲームのようにボタン一つで進めていくことは出来ないし、セーブして一旦やめるなんてことも不可能だと思う。
それにステータスにレベルという項目があるということは、地道に経験値を獲得してレベルを上げていくという作業をしなければならないだろうし。
この世界を救うという信念を持ち続けて戦っていくなんて、熱しやすく冷めやすい自分には無理だろうね。
うん、無理。
勇者じゃなくて良かったー。
勇者に選ばれなくて良かったー。
勇者になるのはゲームの中だけで充分。
それに、ここでの肩書きは『勇者を守りし者』だっけ。勇者の旅をリアルで見学できるいいポジションじゃん。
チートステータスもあることだし、折角だから楽しむことにしようっと。
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