或る青年将校

とつじ

再現されぬ熱

──彼奴が死んでから、私の生活は完全に空洞になった。

参謀本部で課された仕事を、淡々と処理する。

会議室では冷徹な計算機を演じ、部下には優しい上官を装う。

だが、帰路に就く頃には、胸の奥に空いた穴がずきずきと疼き出す。

宿舎の灯りを見える度、彼奴がいない現実が、毎晩私を引き裂いた。

──だから私は、街の裏通りに足を運ぶ。

灯りの乏しい小路で、若い娼夫を買う。

「……今日も、いいか?」

目の前の少年は怯えたように瞬く。だが構わず、私はその首筋を指でなぞり、息を吸い込む。

甘い香りがする。

それは、どこか彼奴から香っていた、酒や薬の香気と似ていた。

抱き寄せる体温は、あまりにも生温い。

もっと彼奴は温かかった。

その貌には、あの狂気も笑いもない。

「黙れ……喋るな。お前は彼奴だ」

低い声で命じる。理性が見苦しいと言っても、欲は止まらない。

行為の最中、ふいに涙が込み上げる。指先が震え、娼夫を強く抱きしめすぎて、彼に痛みを与えてしまう。謝りながらも、私は止まれない。

――理性を基準にしてきた私が、最も理性から遠いところで、亡霊を求め続けている。

終わったあと、金を渡す。娼夫は恐怖と哀れみを入り混ぜた目で私を見るが、私は顔を伏せるだけだ。

「次も頼む」

そう言ってしまう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る