第2話 天才
ルーフェは代々、拷問を生業とする家系に生まれた。
全ては国のため――幼い頃から教えられてきた技術を全てモノにし、その副産物として手に入れたのは、規格外の治癒術。
拷問に必要なのは、ただ相手を痛めつけるだけではない。
トリジアン家の拷問は『対象を絶対に死なせない』ことに特化している。
拷問対象を死なせることは何よりの失態であり、二流――否、三流以下と言えるだろう。
そんなトリジアン家の中でも、ルーフェは一族の中で最も優れた治癒術の使い手であった。
しかし、まともに治癒術を使ったことはほとんどない。
ルーフェが実際に拷問官として活動したのは一年程度で、期間だけで言えばそれほど長くはない。
だが――ルーフェは拷問の天才でもあった。
彼女が拷問にかけた者が隠し通せた秘密は何一つとしてなく、将来も期待されるほどだったのだが、拷問制度自体が禁止されるということは、決して珍しいことではなかった。
たとえば王が変わることで、その行為が非人道的であると判断される。
ルーフェのいた国では革命によって、新たな王が生まれ、トリジアン家は旧王制側の者として、追放処分を受けたのだ。
追放とは名ばかりで、実際に一族郎党を始末するための暗殺者まで派遣していた徹底ぶりである。
誤算だったのは、トリジアン家の持つ治癒術だ。
暗殺者が致命傷を与えたとしても、ルーフェを含めて死に至る者はいなかった。
こうして、家族と生き別れることになったが――ルーフェは一人、新たな場所で生活を始めた。
拷問官ではなく、冒険者という新しい職業を手に入れて、だ。
(他国の人間が拷問官として雇われるなんてないでしょうし、何より王が変わったらこうやって命の危機に晒される可能性だってありますしね)
ルーフェは現実的に生きる道を選んだ。
治癒術のレベルの高さで言えば、専門に生きることも可能だ。
しかし、それにはレベルの高い資格の取得が必要であり、ルーフェが今からなるには難しい。
そこで、自身の力を生かしてすぐになることができる冒険者になったのだ。
冒険者は国による制度ではなく、冒険者ギルドが存在して冒険者達を管理している。
国が冒険者ギルドを設置するかどうかを選ぶ権利があり、基本的に断るところは少ない。
なにせ、自分達も仕事の依頼ができるからだ。
冒険者の頂点を目指す――なんて大それた目標はない。
ただ、自分の力でできることをしようと思った。
かつては国のために。今度は、冒険者として困っている人を助けるために。
「おお!? すごいな、あんたの治癒術は」
「いえ、これくらい大したことは……」
冒険者ギルドの受付にて、ルーフェは怪我をした冒険者の治療をしていた。
冒険者になるための試験には問題なく合格し、活動を始めてからはまだ日が浅いが、ルーフェがいるところで怪我人を見かけた際にサービスしている。
中には、食事や宿代を出してくれる人もいるし、冒険者達からの評判も上がって悪いことはない。
ルーフェはまだ最低ランクの『E』であり、個人で受けられる仕事も限られているのだ。
故に、治療も稼ぎに貢献している。
「それにしたって、レベルが高いぜ。やっぱり、高名な治癒師の弟子だったのか?」
「いえ、そういうわけではないんですが……まあ、家柄が治癒師だった、と言いますか」
――ルーフェは嘘を吐いている。
実は昔拷問官で、拷問で相手を絶対に死なせないために得た治癒術だ、なんて言えるはずがない。
だから、笑顔で誤魔化している。
そして、ルーフェはもう一つ大きな問題を抱えていた。
(……どうしましょう。怪我を治したら、殴ったり斬ったりしたくなってきました……)
ただ治癒するだけでなく、時々拷問をしたくなってしまう衝動に駆られるのだ。
だが、悪さをしていない冒険者達にそんなことはできるはずもなく、ルーフェは必至にこの欲求に耐えている。
たまに声をかけてくる『悪い奴ら』に、溜まっていた欲求を発散するのだ。
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