第2話
「ということは、バランスが崩れると…」
不吉な想像が私の脳裏をかすめました。ですから、その先は聞きたくありませんでしたが、お釈迦様はそのままお話をお続けになられました。
「すべての天国が崩壊するのです」
私は思わずよろよろと一、二歩後退し、表情筋は硬直して息も止まってしまいました。
「予定としては、もう少し先のことだったらしいのですが、先日の世界天国サミットの時、イエスキリスト国務長官が、予定が早まったことを丁寧に説明してくださいました。ゴッドも様々な情況を考慮したうえでの、苦渋のご判断とのことなのです」
目の前の池には、白く透き通った睡蓮がいくつも咲き誇り、甘い香りを辺りに漂わせておりました。
その美しい風景からはまったく想像できないことがまもなく起ころうとしている。
そんなことはとてもイメージすることができないのでございます。
そこまでお話になると、お釈迦様は池の淵にある瑠璃と銀でできた岩にお座りになられました。私もおそばに座らせていただいて、がらんどうのような心でボンヤリしておりました。
やがて、お釈迦様のお体が少しずつ右へ揺らいだかと思うと、今度は左へとゆっくり
と倒れるようになったのでございます。お怪我をなさらないように、私はお釈迦様を柔らかい所にお連れして、銀色の羽毛でそっと包ませていただきました。
「ごくらく、ごくらく、むにゃむにゃ」
私は(ここは極楽なのでごくらくなのは当然でございますが)と言いたい気がしてくすくすと笑ってしまったのでございます。
お釈迦様がお眠りになっている間に、私は知恵を総動員して必死で考えたのでございます。
危機回避のためには、私たち極楽も完成に近づけば良いのです。
他の天国ではどのようにしているのかを考えたときに、真っ先に浮かんだのはヒンズー教でした。
その仕組みは、極楽界・人間界・地獄界だけでなく様々な世界が作られていて、霊はそのなかを順に移動するというものです。
人間界・極楽界・地獄界はすでにございます。あと3つぐらい世界を作ってしまえば極楽システムの完成度が上がるのではないでしょうか。
例えば、動物や昆虫に身をやつし、本能ばかりで生きている世界などはどうでしょうか。
これは非常にユニークな世界でしょう。
他に人間の嫌いなこと、苦しいことを取り出した世界がいくつも考えられます。
次に私が思いついたのは、食べ物も飲み物もない世界です。
これは相当苦しいでしょう。
さて、もう一つぐらいあったほうがいいのですが……。
人間の業のような世界。
あれこれ考えをめぐらしておりましたが、人間といえばやはり戦争だと……。
これしかないと思ったのでございます。
そして、その3つの世界をそれぞれ「畜生道」「餓鬼道」「修羅道」と名付けたのでございます。
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