☆おまけ☆
明日は午後からしか講義がないからと。平日にも関わらずマンションに足を運んでくれた年下の恋人が、自分の家のキッチンにいると言うだけでテンションが上ってしまう。
俳優という自分の仕事がら、公にできない二人の関係のせいで、会える頻度も普通の恋人に比べたら信じられないくらい少ない。そのことについて一言も文句を言わない咲太郎に申し訳なく思いつつ、会えた時は未だに馬鹿みたいに嬉しいから、それはそれでいいのかもしれないけれど。
風呂から上がったら、咲太郎がキッチンで一生懸命珈琲を淹れている。
咲太郎も自分も、いつもはドリップパックで済ますのだけれど、あまり共通点のない二人が唯一好きな珈琲を、一から淹れてみようと咲太郎は最近思い立ったらしい。本や動画で勉強していると先日オンライン通話で言っていた。
珈琲サーバーから上がる湯気を、ぶつぶつ言いながら真剣に見つめる横顔が可愛い。
『旨い珈琲、飲みたくない?』
咲太郎はそう言って何気ないふりを装っていたけれど、彼の行動が、いつも自分を思ってのことだということはもう身に沁みて知っているから。
自分が風呂から上がるタイミングを見計らって珈琲を淹れるそのうしろ姿が、彼の全てを物語っている気がして。
「うわ。めちゃくちゃいい感じだね」
うしろからそっと近づいて囁くと、ふわりと珈琲と咲太郎のシャンプーの香りがした。
さっと咲太郎の耳が赤く染まって、けれど何でもないように「ん。上手くなっただろ?」とすまして答える。
よくよく咲太郎を見たら、彼が羽織っているのは自分のカーディガンではないか。
珍しく得意気に上がった唇に、珈琲豆より愛しさが膨らんで破裂した。
「ちょ……!」
思わず口吻けて動揺する咲太郎を無視して、ちゅ、ちゅ、と立て続けにその唇を啄む。
いつもなら殴られて終わりだが、熱いドリップポットを持っているせいで抵抗力が弱い。
調子に乗ってぬるりと唇の隙間から舌を差し込んで絡めたら、流石に胸をドンと叩かれた。
「あー! もう、なにすんだよ! せっかくいい感じだったのに!」
すっかり乱れた息のせいで肩で息をしながら、真っ赤になって毒づく。
サイズの合っていないカーディガンを「無駄に長くてムカつくなァ!」と照れ隠しにずり上げる咲太郎に、急激に膨らんだ欲。一秒でも早く触れたくなった。
「ちょっと失敗したけど、お前のせいだからな!」
彼はそう言って睨んできたけど、自分のせいで彼を動揺させたのだとしたら本望だ。
彼がいつも『無駄に整っていてムカつく』と称するこの見た目を、フルに使って誘惑する。「ねえ」と熱を持って彼の耳元で囁けば、自分でも聞いたことのないような甘えた声が出た。
咲太郎には悪いけれど、自分と同じ熱量で潤んだ瞳を見たら、もう珈琲のことなどすっかり忘れて。
そのカーディガンを脱がせることしか考えられなくなる。
その後は、好き勝手に彼を堪能して。
明日目が覚めたら、きっと怒られるんだろうなぁと思うと、なんだかよけいに幸せな気持ちになる。光は部屋に満ちた珈琲の香りと咲太郎の匂いの中で目を閉じた。
❖おしまい❖
2025.11.5了
珈琲とカーディガン~きみのとなり。番外編~ 🐉東雲 晴加🏔️ @shinonome-h
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます