7-9. 幕の裏では
闇が闇を払うことはできない。
光だけがそれを成せる。
公民権活動家 キング牧師
その後すぐ、ノトリアス刑務所の囚人千五百人の間に、ある噂が出回った。
「共和国リーグの勝敗は、マシュー大統領殿下一派に操作されている。それは、我々が賭けの利益を得るためだ、という噂です」
「ふうん、噂というか、事実だね」
取り巻きから報告を受けたマシューは、それほど驚かなかった。何しろ囚人たち千五百人しかいない閉じた環境では、いずれ露呈するというのは目に見えていたからである。
「それなら、そろそろ潮時かな。酒やその他で十分利益は出ているし」
「しかし、大統領殿下。問題は、この噂を流したのがあの憎きケイシーの一味だということです」
マシューは自分のことを、わざわざ仰々しく大統領殿下と呼ばせていた。そういった類の称号を好まなかった本物の初代大統領、ジョージ・ワシントンとは大違いである。
「やっぱりそうか。察しはつくけどね。なぜ分かった?」
「その噂がこんな印刷物で出回っているからです」
マシューの検閲化に置かれた新聞に、告発じみた記事を載せることはできなかったが、匿名の文を別の紙に印刷して配っていたのである。所内の印刷機を怪しまれずに使えたのは、普段からそれを使っている者が関与したからである。
「あー、あのデブか。面倒なことするもんだね」
当たりがついたマシューは、ケイシーの思惑にも思いが至った。噂を流すだけなら、印刷物にする必要はない。むしろ、余計な証拠が残って後々詰められる可能性がある。そこであえてマシューに伝わりかねない方法を選んだ理由は。
「挑戦状ってわけね。小癪な連中だ」
笑みを浮かべて平静を装ってはいたが、その紙を無意識に握りつぶしていた。
「難儀な性格だよ、俺って奴は」
ちょうどボールの大きさに丸まった紙を見つめながら、マシューは呟くのだった。
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