開幕のご挨拶 -下っ端魔族の独白-

 さて、こうして幕を開けたのはリュミエール大陸で活躍した偉大なる勇者の物語だ。

 思わぬ裏切りによって一度は挫折しかけた勇者が、不屈の精神で再起を果たし、見事魔王を討ち果たすという、王道の物語だ。

 実際、セリオスって男にはそんな物語の主人公になれるだけの器があった。

 けど、残念ながらこの世界の悪は強大な上に狡猾すぎた。

 裏切り者の戦士は愚か者ではあったが、残念なことに奴の見立ては間違っていなかったのさ。

 この物語にハッピーエンドはあり得ない。

 高潔な精神も不屈の闘志も未来を切り開くことはできず、愛も友情も朽ちて消えるだけだった。

 このままであったならば……。

 けど、皮肉な運命がこの世界に暗黒の太陽を昇らせる。

 そう、我らが魔王メアリーさまのご登場だ。

 だが、まず最初に顔をお見せになるのはメアリーさまご本人ではなく、その側近であらせられるふたりの魔族だ。

 この俺っちの直接のボスであるコテージさまと……ん? 微妙に名前が違う気がするな。まあいいか……と、とにかくコテージ様と、その先輩にあたるサビーネさまだ。

 おふたりがここにいたのは、ただの偶然だったが、それは実に運命的な偶然だったんだ。

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