第三章 罪の兆し

――未来を変えようとした。その行動に後悔なんてない。……はずだった。


街は穏やかだ。

――世界は、戻った。

朱莉は健康で、彼も笑っている。

だが、何もしなければ、朱莉は再び同じ理論に辿り着いてしまうだろう。

決定的な瞬間があるすれば、

彼が朱莉の心を「押す」タイミングだと透香は感じていた。

――今度は、そうさせない。


透香は、彼と朱莉の距離を見守った。

必要以上に干渉するつもりはなかった。

ある昼下がり。

彼が朱莉に声をかけようとしたその瞬間、

透香は無意識に口を開いた。

「ねえ、少し相談してもいい?」


彼が立ち止まり、こちらを振り返る。

朱莉が一瞬こちらを見た。

その目の奥で、光がかすかに揺れた。


夜。

透香は自分の手を見つめていた。

「違う。私は、ただ……未来を変えたかっただけ。」

彼の視線が朱莉から外れ、

代わりに自分へ向くことで、高揚する自分を感じた。

「ごめん……。私は、卑怯だ……。」


それでも、止めてしまいたかった。

朱莉が、彼が、あの結末に向かって進んでいくことを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る