第12話 頼むから説明してくれ

 このままだと2人の睨み合いが終わらなそうだったので、俺は茶を濁すために座って話さないかと提案した。


 意外にも2人はすんなりそれに従い、丸テーブルを三つ巴のように囲んで座ることになった。


 カチ、カチと部屋の中に時計の秒針が動く音だけが鳴り響く。


 誰も口を開こうとしない。ここは家主である俺が先陣を切るべきか。


「なあ黒崎くろさきかえでに会いたいってなんでだ? 2人は今日が初対面だろ?」


「ええそうよ。でも私は翠川みどりかわさんを知っていたし、翠川さんも私を知っていた。なら、ほぼ知り合いみたいなものでしょ?」


「強引な解釈だなぁ」


「翠川さんのことを知っていたのは、私が大学内でに目をつけていたから。会いたかった理由は、蒼井あおい君に最も近しい人間が翠川さんだったからよ」


「なるほど。説明されたらされたで意味がわかんないな。これってなぞなぞ?」


「もとよりあなたにわかってもらおうだなんて思ってないわ。ね、翠川さん?」


 黒崎の言葉に対し、楓が首を縦に振った。どうやら黒崎の言葉の意味を理解しているらしい。


 2人だけで話を進めないでくれ。頼むから説明してくれ──と言いたいところだけど、この雰囲気の中それは聞きにくい。


「黒崎さん、いくらあなたでもりつは手に負えないと思う。何を企んでるのか知らないけど、あなたのためにも諦めることをおすすめするわ」


「残念だけど、私は一度決めたことを曲げたことはないの。今までも、これからもね」


「そう」


 楓はこれ以上話すつもりはないと言うように、コーヒーを口に運んだ。


 黒崎はそんな楓を見て満面の笑みを浮かべている。


 そして、コーヒーカップを手に取ると中身を一気に飲み干した。


「ご馳走様。今日は突然お邪魔してごめんなさい。また会いましょう、翠川さん。......それと、蒼井君。土曜日の約束、忘れないでね」


「わかってるって。映画見に行くんだろ」


「覚えてるならいいの。それじゃあね」


 ひらひらと手を振り、黒崎は風のように去っていった。......この場合、台風みたいなものか。


 黒崎がいなくなった後、楓はじっとコーヒーカップを見つめたまま微動だにしなかった。


「はぁ〜」


 楓はようやく動き出したと思いきや、全身の力が抜けたように机に項垂れた。


「怖かった......」


「大丈夫?」


「全然。ちょっと足震えてる」


 黒崎がそんなに怖かったのか。まあ、圧は感じたけどさ。


「なんかよくわかんないけど、黒崎は楓を気に入ってる? みたいな感じだったな」


「表向きはそう見えたかもね。でも本当の狙いは、私への牽制と探りよ」


「そんなことして何になるんだ?」


「律、本当何もわかってないのね......あんぽんたん」


 楓は頬を膨らませ、ずれた眼鏡の位置を元に戻した。


 おっしゃる通り俺は何もわかっていない。


 いや──黒崎に言われた通り、人の気持ちがわからないのか。


 今までなんとなくで生きてきたけど、こういう時に楓や黒崎が何を考えているのか、どういう気持ちなのかを理解しようとしてこなかった。


 そこが、俺に欠けている部分か。


 『蒼井律・更生計画』はあながち間違いじゃないのかもしれない。


 とはいえ、面倒なことに変わりはないけど。


「それより、土曜日の映画って何? また黒崎さんと出かけるの?」


「ほぼ強引に誘われたんだ。俺には人の気持ちがわからないから、映画を見てその登場人物の気持ちを俺なりに考えさせるんだって」


「......そこもいいところじゃん」


「フォローしてくれてありがとう」


「──! そういうのは......聞こえないふりするの、ばか」


「痛い痛い」


 楓に思いっきり腕をつねられた。


 この距離で聞こえないふりは無理があるよね?



「で? 律は映画に行きたいの?」


「なんの映画かにもよるな。俺ホラーとか苦手だし」


「そういう話じゃないし」


「痛い痛い、ごめんなさい!」


 再びつねられ、俺は痛みのあまり全力で謝った。

 

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