第14話 リゼという少女
広場の噴水は、夜になると魔力灯で淡く照らされる。
水面が揺れ、風が通り抜ける音が静かに響いていた。
その中に、昨日と同じ少女がいた。
紫がかった黒髪のロング。
人形のように整った顔立ちで、表情はほとんど動かない。 まるで、誰かに感情を預けることを拒んでいるようだった。
俺は、彼女の隣に立った。
「……また来てたんだ」
少女はゆっくりとこちらを見た。
「あなたの焔、昨日より静か」
俺は少し驚いた。
「……わかるの?」
「匂いで。あなた焔は、感情の匂いを持つ」
その言葉に、俺はマフラーを握りしめた。
「………君は、魔法使い?」
「そう呼ばれてる。でも、私は“人間”じゃない」
彼女の声は淡々としていた。
俺は言葉に詰まった。
人間じゃない――その意味は、まだ分からなかった。
「名前、聞いてもいい?」
少女は少しだけ首を傾けた。
「リゼ。リゼ・コード」
「……俺は、カイ。カイ・アグニス」
リゼはうなずいた。
それだけだった。
沈黙が流れる。
でも、不思議と居心地は悪くなかった。
彼女のそばにいると、焔が落ち着く気がした。
まるで、風が焔を包んでくれるような感覚。
「君は、何のために魔法を使うの?」
俺が聞くと、リゼは少しだけ目を伏せた。
「……わからない。命令されるから、使うだけ」
「じゃあ、君の“願い”は?」
リゼは答えなかった。
でも、その瞳が、ほんの少し揺れた気がした。
「俺は、誰かを守るために焔を使う。……それが、俺の誓い」
リゼは俺を見つめた。
「守る、って……どうして?」
「……守れなかった人がいるから。だから、次は守りたい」
その言葉に、リゼの瞳がわずかに震えた。
「焔って、あったかいんだね」
彼女がそう言ったとき、初めて表情が緩んだ気がした。
ほんの少しだけ、微笑みに近いものが浮かんだ。
その夜、俺は初めてリゼの“人間らしさ”を見た気がした。 彼女はまだ、何かを探している。
自分が何者なのか、何を望んでいるのか。
そして――その答えを、俺の焔の中に見ようとしているのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます