第13話 試験と焔の証明

翌朝、俺はギルドの訓練場に呼び出された。

受付の女性に案内され、俺は石畳の広場へと足を踏み入れる。

そこには、屈強な男が腕を組んで立っていた。

灰色の髪、鋭い眼光、筋骨隆々な体、歴戦の冒険者に相応しいオーラを放つ男。

ギルド長――バルド。


「お前が昨日の新人か。カイ・アグニス」

「はい」

「報告書、見させてもらった。ファイアージャベリンを詠唱のみで発動したそうだな」


俺は少しだけ身構えた。


「……はい。練習しました」


バルドは唸るように笑った。


「魔法の制御は、技術と精神力の両方が要る。詠唱だけで形を保てるなら、見込みはある」


彼は片手を上げ、訓練場の中央を指した。


「実力を見せてもらおう。今度は、俺が相手だ」


深く息を吸った。


焔は、手のひらの奥で静かに揺れている。


「魔法として見せる。焔じゃない。炎魔法だ」


そう言い聞かせながら、構えを取った。


バルドが踏み込む。  剣の一撃が、空気を裂いた。


俺は跳び退きながら、声を放つ。


「ファイアージャベリン」


焔が、槍の形を成して弾けた。

赤い焔が鋭く伸び、バルドの剣にぶつかる。

火花が散り、衝撃が訓練場を震わせた。


「ほう……詠唱だけで、あの精度か」


バルドは笑っていた。


「だが、まだ甘い。魔法の芯が揺れている。心が迷ってるな」


俺は息を整えながら、焔を見つめた。


「……俺は、誰かを守るために焔を使う。それだけです」  「なら、迷うな。魔法は心を映す。お前の心が揺れれば、技も揺れる」


試験は、それで終わった。

バルドは俺の肩を叩き、笑いながら言った。


「合格だ。だが、魔法を使うなら、覚悟を持て。冒険者は甘くないぞ」


俺はうなずいた。


「はい。覚悟は、もうできてます」


その夜、広場に行くと、また彼女がいた。

紫がかった黒髪のロング。

人形のような顔で、彼女は噴水の水を見つめていた。


「……試験、終わったよ」


俺が声をかけると、少女はゆっくりとこちらを見た。


「焔、少しだけ……安定した」

「……そうかも」


少女は何も言わず、ただ俺を見つめていた。

二日間少し一緒に過ごしただけだけど、彼女は何か嬉しそうだと感じた。

そして、その瞳の奥に、何かが灯り始めている気がした。

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