リヴェルト・コード

ちゃぴ

第1章 リヴェルトのスカベンジャー


――第1節:墜ちた街のデコード・アイ――


 轟音。

 金属と砂塵が爆ぜる。ビルの残骸が横倒しになり、火花が宙を裂いた。


 ――追ってくる。

 背後の瓦礫を蹴り、春日ハルヒは全力で走っていた。


 地面は崩れかけた鉄骨。足元でコンクリートが軋むたび、熱風が肌を焼いた。

 追ってくるのは人の形をした“機械の獣”。

 赤く光る目、装甲の隙間から蠢く配線。

 かつて防衛兵器だったそれは、今や自律進化して“生き物”のように襲いかかってくる。


> 「……くそっ、なんで三体も来るんだよッ!」




 通信ノイズ混じりの声が耳の中で響く。

 〈ノア〉だ。ハルヒの相棒であり、遠隔支援の機械技師。


> 『だから言ったでしょ! そこ、レベル3汚染区! 生きたまま帰るつもりなら走りなさいッ!』

「余裕あったらもう少し優しく言えよ!」




 息を切らせながら、ハルヒは背中のホルスターから光学ブレードを抜く。

 白銀の刃が展開し、振るうたびに青い残光が走る。


 ――“ガシャン”。

 背後で鉄骨が折れる音。


 飛び出してきた機械獣が腕を振り下ろす。

 反射的に横へ転がる。直後、地面が粉々に砕けた。


> 『二時方向、もう一体来る!』

「わかってるッ!」




 振り返りざまにブレードを薙ぐ。

 だが敵の装甲は厚く、火花を散らすだけ。

 圧倒的な物量と力。

 このままでは押し潰される。


 その時――

 耳の奥で、違う“声”がした。


> 「――視ろ、ハルヒ。」




 低く、響くような声。冷たいのに、妙に心に刺さる。

 脳内に直接、音が流れ込んできた。


> 「誰だ……!?」

「名はオルフェ。お前の左眼に宿るものだ。」




 左目が、疼いた。

 視界がぐにゃりと歪み、世界がコードの線で満たされる。

 空間が、敵が、光の糸のように分解されて見える――。


> 『ハルヒ!? 何してんの、逃げ――』




> 「――視える。」




 その瞬間、ハルヒの左目に金の紋章が浮かぶ。

 敵の装甲、その構造、その“壊せる一点”が、光の中に浮かび上がった。


> 「そこだッ!!」




 叫びとともに、ブレードが閃く。

 青い光が走り、敵の胸部を一閃。

 爆発。金属片が雨のように降り注いだ。


 残り二体が動きを止め、一瞬だけ沈黙が訪れる。

 だがすぐに唸りを上げ、左右から襲いかかってきた。


> 『やるじゃん……でもあと二体! バッテリー残量3%だよ!』

「上等だ!」




 ハルヒは口角を上げた。

 心臓が爆ぜるように鼓動する。

 恐怖より先に、血が沸騰している。


> 「オルフェ! 次はどこを視ればいい!」

「敵の右膝装甲。破壊すれば動きが止まる。」

「助言ありがと、神様!」




 飛び込む。

 敵の拳をすれすれでかわし、左脚を切り払う。

 油のような液体が噴き出し、巨体が膝をついた。


> 『残り一体! ハルヒ、引き上げて!』

「いや、まだ――」




 最後の一体が、背後から迫る。

 ハルヒの身体が影に飲まれる。

 とっさに左目が閃光を放ち――視界が真っ白に弾けた。


 そして、静寂。


 煙が晴れた時、敵は真っ二つに裂けていた。

 ハルヒは膝をつき、荒く息を吐く。


> 『……ハルヒ、あんた本当に何者?』

「さあな。俺も、まだ知らない。」




 左眼が微かに光り、オルフェの声が再び響く。


> 「その目は、“世界の構造”を視るためにある。お前がどう使うかは――お前次第だ。」




 ハルヒは笑った。

 その笑みは、恐れと興奮の狭間で震えていた。


> 「なら……使ってやるさ。俺の視界が、壊れるまでな。」




 ――崩壊した街の風が、赤い空を吹き抜けた。

 物語は、今、動き出す。


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