普通じゃない生き方7

大学の午前の部は一旦終了した映士は、凌と共に学食で昼飯を嗜んでいる。テーブルを挟んでお互いに顔合わせで食事を摂るのだが、どうも食事に集中できない。やはり凌の着ているTシャツだ。

食事中にも関わらず、その雰囲気を壊してしまう絵柄。恥ずかしい表情でこちらに視線を合わせるその恋愛シュミレーションゲームの新人キャラクター?が、映士の食事を妨げる。気になるのもそうだが、格好だ。もう少し露出が少ない衣装で居てくれたら良かった。

そして、この場の雰囲気で明らかに浮いている格好である事になんの違和感も抱かない凌もさっきからそのTシャツのキャラクターのゲームについて話しかけてくる。

 映士はトマトスープとエビクリームパスタを食べている。凌のTシャツに写っているキャラクターのエッチな格好が視界に入り、何度か手が止まってしまう。


『映士君もプレイしてみると良い。僕の気持ちを理解できる筈だ。君も女の子に興味がない事はないだろ?』


『………あぁ』


適当な返事で返す。


 『映士君はどんな子が好みなんだい?僕が合うキャラクターを教えてしんぜようじゃないか』


『……好きな子のタイプ…』


映士は悩みに悩む。

そういえば自分はどんな子が好みなのだろう?今まで考えた事あったのかな?甘い返せば異性と仲良くなる事もほぼない。その上、異性という存在を気にもした事がなかったかもしれない。

 映士の趣味を理解してくれる友達は居なかった。それは今でもそのままだ。同性の友達はそう言った恋バナに興味を持つ人もいたが、これまで仲良くなった友達でそんな話をする機会も少なかった。

 大学に来てからだ。こんな奇抜な格好をしてヲタ活アピールを堂々としている人間を見たのは。今までの友達には趣味や好きなものがあったとしても、ゲームや漫画やスポーツ動画配信者が殆ど。特撮ヒーロー好きなどおらず、ましてや恋愛シュミレーションゲームのキャラクターを愛する人はいたとして、ここまで他人に見せびらかす人なんて出会った事がなかった。


 『映士君、答えてみたまえ。恥ずかしいのかい?男たる者!胸を張って堂々としている事こそ、真の男という者。ましてや今この話を聞いているのら僕しかいないじゃないか。さぁ、答えてまたまえ!』


『ぶっちゃけていい?』


『うんうん!』


凌の瞼がこれでもか!と思う程に開いている。そんなに期待しても、納得のいく返事はしないぞとシンパシーを送る映士。


 『俺興味ない…好みの女?別になんでも良い』


『かぁー!なんじゃそりゃ!それは嘘だぁ。男女という存在がこの世にある限り、異性の存在に気にも留めない奴がいるかぁ。こんな僕でさえ!』


Tシャツのプリントされているキャラクターを見せてくるかのように胸張りながら凌は言う。


 『ほら!ここにいるんだぞ?二次元と呼ばれる存在で片付けられるかもしれん。だが、女の子という目で見たら僕は真っ直ぐとこの子が好きと公言出来る』


『公言っつーかそれはもう他人に見せびらかしているようなもん…』


『そうだよ?何が悪いんだ。街中でも恋人と手を繋ぎながら楽しく外を歩いている人となんら変わらないぞ?』


『手繋げないじゃんか…それ…』


『手をがなくても僕の胸にちゃんといるだけでもう僕は幸せなんだよ!デートしているようなもんなんだよ僕にとって!変と思われても関係ない!僕は僕の思うままに日常を過ごしているんだよ!』


『でも流石に二次元と俺らじゃ生きている世界が違うし、周りから見ても明らかに異常だと思われるだろ?同じ次元に生きている者同士でイチャコラしているリア充とは全然違うじゃん?お前はただの頭がおかしい奴』


『好きに言ってなさい。今や多様性の世の中だ。今やAIで生成したキャラクターと結婚やデートが出来る時代。逆に言えばそんな生き方が許される時代なのだよ。映士君、もうちょっと社会の事を知ろうよ。これまでの固定概念などに縛られる人生じゃ、自分自信の好きな生き方が見つけられないままになって、いつか時代の変化に置いていかれる時が来てしまうよ。フン』


ニヤケ顔で目の前のサラダを口に入れる凌。

 首を軽く横に捻って、何言ってんだ?と疑問を浮かべる映士だった。

 本当にこいつは自分の生き方を貫いている。確かに多様性の世の中で、何を好きになるかは個人の自由として尊重される時代になった。そして、批判を受け続けた価値観も浸透して、今や目の前にいる化け物もいる世の中になった。だがそれも許される時代。ややこしいようで、でもそれが当たり前という風になってきた。

 凌が言った、自分の生き方を見つけられないままになるというのは、一歩自分より先を行っているのかもしれないと感じ始める。映士は少しずつだが凌の意見にも納得が行く。

 自分の趣味や価値観を認められなかった人生。それらが公に出来ないから今個人で楽しんでいる。これもある意味では自分の生き方を見つけたという事なのかもしれない。

 凌ならもしかしたら特撮ヒーロー好きである自分の事を理解してくれるのかな?なんだか信頼感を増した映士だが、もし自分の事を全て言ってしまったら、こんな風に公に言いそうだな…。こんなに堂々と公の場で食事中に見せてはいけないTシャツを着て食事をしている人間なんだから。いや、もう人間なのかすら怪しい…

 下手に仲良くしすぎるとそれをきっかけに、映士ももっと見せびらかせ!と急かされるのではないかという疑問も浮かんだ。だからやっぱり誰にもに言うのはやめようと思った。

 だが、こうして堂々と生きているのはそう言った抜け殻から解放され、自由に解放する勇気があるからなのだろう。やはり凌は映士にとって一歩先を生きている人間なのだと感じた。


 『うん。美味かった。やっぱ好きな子と食べる料理は美味いんだなぁ』


ただのサラダとホットドック一つだけという質素な食事だが、凌はそれで満足気だった。

 そして凌が食べ終わるのと同時に映士もトマトスープとエビクリームパスタを完食したのだった。


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