特撮ヲタクの日常3

 『あー、なんなんだよ今日…』


映士は二限の時に、隣の席に座った三人のギャル達に酷い目に遭った事をぶつぶつ一人で言っていた。今日に限って観たかった回を邪魔されるわ、嫌な人種に声をかけられるわ、講義の際も、隣で談笑を繰り返して全然集中出来なかった。

 気の合う友達も、その講義は受けてないから一人で受けるしかない。そんな中、あの連中も同じ講義受けるとは、これからやっていけるだろうか。と言った内容だった。


 『今日三限終わったら自由だし、そん時にさっきの続きを…』


天井を見上げながらベラベラ喋っていると、映士の肩に誰かの肩とぶつかった感触がした。

 ドンっ!と鈍い音がした。そして相手側はやや身長が低めなのもわかった。


 『あ、すいません!』


『あ、ごめんなさい』


相手はなんだか全然気にしてないような感じであり、映士もほっとした。

 

 (あ、やべぇ。独り言聞かれたかも…)


頭でまた嫌な連想をしてしまいそうになる映士だった。


『あ!もしかして東野映士君?』


『え?あ、はいそうです』


 !?。なんで自分の名前を!?

 映士には、異性の仲のいい人なんて居ない。

 少なくともこの大学には居ない。

 自分は特撮ヒーロー好きのただの大学生。そして彼女歴もゼロ。

 こんな冴えない、異性の趣味とかけ離れてる自分に、覚えて貰える程知名度がある訳でもない。

 でも何故そんな自分の事を覚えてくれてたのか気になった。


『だよね!ゼミナール前期の際、一緒に居たの覚えてた!映士君の事印象的だったし』


映士は全く見覚えのない女の子から、淡々と自分の事話されてた事に内心驚いた。同じ前期のゼミナールでこんな可愛い子居たっけ?そして、俺の事をなんで印象的に覚えてるんだ?と。

 茶髪のふんわりとしたショートカットに風が吹けば、サラサラと髪一本一本が流れに逆らわず踊るように靡く。そしてぱっちりと見開いた綺麗な目に、細く凛とした鼻。全体的に童顔と思わせる女の子だった。

 さっき肩がぶつかった時もやや低めに思えたのも、この小柄な立ち振る舞いだったからか。

 だが、服装もショートパンツに海外のブランドだろうか?白い服に赤と黒の文字でMY SELFと書かれている。

 腕につけてる携帯連携のデジタル時計といい、現代の最先端を行く若い20代という感じ。

 そしてなんと例えればいいだろう。

 よくアニメ声優や今流行りのvtuberに居そうな独特の声がしていた。


 『映士君って都市伝説の話してくれた時興味あったの!』


映士はどんな話をしたか全く覚えてない。人違いでは?と思った。


 『あぁ…えっと、なんの話してたっけ?』


『え?なんだっけ?爬虫類型の宇宙人っていうのが居て…』


『あー!レプティリアンの宇宙人が存在してるって話か!あれね。トカゲのような皮膚を持つ人間に擬態した宇宙人。レプティリアンは人間社会を観察しながら、人間を捕食してこの地球に隠れながら生きてる。一説によると、彼等は地球の内部の住人、つまり地底に住む生命体であり、そこで高度なネットワーク技術を駆使してこの地球社会を監視している…』


ぽかーんとした気の抜けた女の子が目の前で、話を聞いていた。

 映士はその様子から、これ以上話してもわからないと察した。それと同時に自分の早口な口調で喋るからヲタクみたいと思われる事に恥ずかしさを感じた。


 (しまった!つい好きなものを喋るとこうなるから、なるべく短く伝えようとしたのに)


映士の顔から汗が一気に流れ出し、顔が急激に熱くなる。


 『あー!いや、わかんないよね!ごめんごめん!あ、そのー、あんまりこういうの話す人って居ないからつい』


『もっと聞きたい!』


瞳をキラキラ輝かせながら注目の視線を浴びてくる女の子。

 ところでこの子はなんという名前なのだろうか?


 『あぁ…まぁ俺今から昼ご飯食べなきゃいけないからまた』


『そうなの?わかった。またね!』


 結局名前を聞けずにお別れをした。

 映士の中でモヤモヤが増えるばかり。

 なんだか損をした気分だ。このまま昼ごはんなんて食べずにあの子ともっとお話ししておけば、もっと仲良くなれたのではないか?

 なんだかもう一度戻って話をしに行こうかと考えたが、それはキモいだろうなという発想に至った。

 ただでさえ自分はキモいのに…




映士は昔から特撮ヒーローが大好きだ。小学生、中学生、高校生になってもその趣味は消えることはなく、なんならみんなに話したいくらいだった。

 だが映士には、そんな話を出来る程の友達は居なかった。正確には友達は居た。ただ趣味の話が出来る友達ではなかった。

 自分が特撮好きというのをずっと隠しているのは、幾つか理由がある。

 例えば中学生の時に、特撮ヒーローの戦隊に科学がモチーフにされた戦隊がいた。よく理科の授業でその専門用語が出てくると、ついそれに反応し、先生に答えを言えと言われたら、正解を出すも、その後おまけで更に豆知識を言った事がある。

 何故それ程知ってるのかと先生に問われたが、答えられなかった。適当に、なんかの動画で見たと答えた。

 勿論本当の答えは、その特撮ヒーローの知識からである。しかし、周りは思春期で、そういうジャンルが好きな人は痛い奴や幼稚なものに憧れるキモい奴、という括りにまとめられる事がある。

 科学の勉強は、その特撮ヒーローが教えてくれたのと同時に、空想科学の本を手にして読んだ知識もあるから好きだった。でも、その知識の元は何かと言われたら答えられない事があった。


  

 

 『あー、やっぱ今日なんもいい事ないや。さっきの子ももっと話せておけば…』


またぶつぶつ語り出す。映士の心がどんどん沈んでいく。


 『……特撮。話せる人居ないか…』


大学生でも特撮好きはやはり、ちょっと仲良くなるのは拒む人が多いか。と、自分に言い聞かせる映士。

 そうやってどんどん心が沈んでいきながら、大学のベンチに向かい歩く。


 さっきのレプティリアンの話も、今放送している、兆宇宙戦隊 プラネットファイブによる知識だ。

プラネットファイブの敵軍団には、宇宙に基地を作っている敵と地下帝国に居る敵がいる。その敵達から地球を、そして宇宙の秩序を守る為に戦う戦士達が派遣された。それがプラネットファイブなのだ。

その地下帝国に居るのが、レプティリアンがモチーフとされる軍団である。それからレプティリアンについて調べたのだ。

ダークネスマターは地下帝国敵軍団と宇宙帝国敵軍団両方に味方をする者である。

 ベンチに座って一人、スマートフォンを手に取り、さっきの続きを見ようとする映士。


 『さっきはほんと邪魔してくれたせいで、せっかくいい所で終わっちゃったよ!全く!俺の楽しみの一つをあんな奴らに!』


文句を言いながら先程のアプリを開き、三限終わってから見ようと思ったが、気晴らしに続きを見る事にした。

 


 

 

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