特撮ヲタクの日常2

 東野映士は18歳の大学一年生。大学では一人暮らしに日々奮闘しながら、単位を落とさないように毎日休まず大学に行っている。

 サークル活動には特に興味がなく、いつもフリーな大学生活を送る日々だ。

 夏が過ぎ、前期の単位を全て落とさずに突破出来た映士は一安心している。まだ気を抜けないが、この調子で後期も日々の生活を乱さないよう過ごすと決めた。

 いつものように大学に通う。大学のコンビニで昼ごはんを購入し、二限に向かう。

大学のキャンパスには建物が二つしかない。一つが入り口から入って目先に見えるA棟。そしてその右隣に建設されたB棟だ。

 それぞれ白い壁に覆われた4階建の棟には、いつも勉強に来る学生が真っ先に向かう所だ。

A棟の出入口前には、それはそれは段数の多い階段が聳えたっており、登りきった所にだだっ広い玄関がある。

よく入り口前に立ち往生しながら談笑している学生をよく見かける。

映士はいつものようにA棟の階段を登って玄関に着く。入り口前にはやや露出の高い、映士と同い年の女子学生が三名、セルカ棒にスマートフォンをくっつけて、ポーズしながら笑ってる。何かの撮影だろうか。

 映士は彼女達の中心人物の一人の顔をを知っている。

 今流行りの配信アプリである、topptopのインフルエンサーである。名前は木ノ本愛唯(きのもとあゆ)。

 前期で、彼女と同じゼミナールだった。映士とはそれ程会話をした事はない。

 何せtopptopでは、フォロワーが1ヶ月で1000人になる程の一気にバズった動画が話題になった配信者だ。その動画とは、配信中に妖艶でエロティックな動きで世の男性を虜にしたダンスを投稿した所、男性フォロワーが一気に食いつき、話題となったから。

 そんな子と気安く仲良くなれるわけがない。何故なら、映士とは趣味も嗜好も全然違う。

 映士は、その三人に気を留める事もなくA棟に入って行った。

 

 映士はよく後ろ席に座る。後ろの方なら空いていたらどこでもいい。基本、教授との距離が遠い席に座りたい欲があった。

 映士は、空いたいる席を見つけて腰を降ろし、隣座席が空いているのを確認してリュックサックを置いた。


 『まだ時間あるし…』

 

 辺りを見渡す。自分の近くにはそんなに人が座っていない事を確認する。

 自分の後ろの席、前の席、隣、あんまり大勢座ってる様子はない。


 『よーっし!』


映士は自分のリュックサックからスマートフォンを取り出した。

 とあるアプリを開く。白い背景に赤い特撮ヒーローの仮面と専用武器のサムネイルのアプリだ。


 『昨日見れなかった分の続きを』


そのアプリから、『兆宇宙戦隊 プラネットファイブ』と検索。視聴済と書かれたストーリーをタップ。順番にタイトルが出てきたが、一番下の『NO.30最凶vs最強』タップする。


映士は、映像の途中から再生されたそのストーリーを楽しみにしていた。

 小型無線ワイヤレスイヤホンを装着。音量を半分程に上げる。

 

 『っしゃー。今なら誰にも邪魔されない』


 映士は一人暮らしの学生用アパートに住んでるが、テレビがない。だから、映士がこよなく愛する特撮番組が視聴できない。だから、いつも最新話を見るのは動画視聴サイトの違法アップロードされた映像か、この特撮最新情報が掲載されるアプリしかないのだ。

 大学のキャンパスはWi-Fiが設置されている為、観やすい。学生用アパートはWi-Fiも設置されているが、天候により電波が悪い事が多い。だから大学の休み時間に、こうして隙間時間を利用して視聴するのだ。


 (俺が来たからにはもう大丈夫!)

(リーダー!)

(懲りない奴だ!お前は一度敗北を味わい、敵う手段はないと思い知っただろう!)

(ダークネスマター!俺達が今までどれだけの敵と戦ってきたか、お前は知ってる筈。例えどんな強大な敵でも、俺達一人一人のプラネットソウルで乗り越えてきた!俺達の魂は!無敵だ!無限だ!行くぞ!みんな!)


『かっけぇぇぇ…』


小声でみんなに聞こえないように映士は呟く。


 (俺達プラネットファイブの真の力を見せる時!)


 プラネットファイブにはそれぞれ赤、青、黄、緑、オレンジの五人の戦士がいる。

 それぞれ銀河系の模様をしたスーツにメタリックカラーのヘルメット。そして星のマークが中心にあるベルト。

 この戦士達こそ、今放送している兆宇宙戦隊 プラネットファイブである。

 プラネットファイブのリーダーが変身し、五人が全員戦闘用スーツで揃った。

 そして敵に向かって突っ走る。


 (やれ!お前ら!)


敵のその声の後、歩兵達が現れてプラネットファイブに襲いかかる。

 プラネットファイブは、一網打尽にして歩兵を倒した。そして、強化フォームチェンジをする。

 今回の敵はイカのような触手の腕に、口から爆弾を吐き出す敵だった。

敵が爆弾を放つ。強化フォームチェンジでも敵わない。

 

 (やはり強い!)

(このままじゃ、またあいつらにやられて)

(リーダーがまだ復活したばかりなのに、諦めてたまるか!)

(そうだ!リーダーに俺達の成長を見せる時だ!)


敵がゆっくりと歩み寄る。そして口からエネルギーを貯める。


 (まずい!みんな!)


プラネットファイブの青色がみんなに掛け声をかけた。次の瞬間だった。

 

 (俺に任せろ!)


プラネットファイブの赤であるリーダーがそう言葉を放ち、あるアイテムを手にした。


 (リーダー!)


みんなが一斉に声を上げた。そして敵のビームが放たれる。

 プラネットファイブがビームにより爆発した。と思った矢先、その爆炎が吸収される。


 (何!?)


これは新フォームの誕生の時だ!今か今かと待っていた。次の瞬間だった。


 『あのさー!』


映士は誰かから呼ばれている気がした。

 隣にはさっき玄関前でスマートフォンで撮影していた3人がいた。

 映士がイヤホンを取り外して、画面が見えないように隠す。

 三人共、映士を睨みつけるかのように凝視する。


 『は、はい?』


『はいじゃないんだけど!邪魔!カバンどけてくんない?』


『え?あー、すいません…』


せっかく良い所だったのに、このヲタクにも優しくないギャル達に邪魔された。

 すぐにリュックサックをどかして席を空けた。

 そして睨みつけた三人は、軽く舌打ちした後席に座る。

 丁度、横四列の席なので全部埋まった。


 『なんなんだよこいつら…他に席あんだろ…』


と辺りを見回す映士。いつの間にか席が埋まり尽くしていた。

 後ろも前も、みんな学生が座っていた。


 (あれ?いつの間に?)


そして映士はふと、嫌な予感がした。


 (なんでこの席なの?三人掛けの空いてる席本当になかった?ってか、もしかして…さっき俺が観てた映像見られた!?俺が特撮好きってバレて笑われて…)


映士の頭の中で、この三人が特撮好きの奴という理由で、(キモっ!こんな奴の隣とか嫌なんだけど)とか、(なんか友達居なさそう)とか笑われてる様子が思いつく。


 (ちょっと待って!勘弁してくれよ。なんでよりによってこの三人…ってか、友達?いるわ数人だけだけど…アニヲタの人と、なんか誰とでも仲良くしてくれる優しい人と…)


考えれば考える程顔が熱くなり、両方の頬を押さえる。


 『全く講義なんてなんで出席しなきゃいけないの?誰か代わりにやってよ』


愛唯がそう言って駄々をこねてるのが聞こえた。

映士はその会話をただ聞きながら、早く講義終わらないかなぁ〜とずっと我慢するしかなかった。



 



 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る